ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

弓削孟文著『手術室の中へ』を読む

 小飼弾氏の本にあった推薦書の中から弓削孟文著『手術室の中へ』を読みました。今から10年前に出版されたものです。
 私はこれまで6回ほど手術を受けた経験があり、それもかなり手遅れの段階だったので、術後の状態が芳しくなく、現在メスが入ったところ、腸ろうが設置してあったところは、ことごとくその筋膜が欠損して、腸が表皮の下に飛び出し、腹壁瘢痕ヘルニヤになっています。1976年〜1989年の間の事でした。
 それまで健康だったので、あまり病気とか手術の事を考えた事がなく、この本を読んでからまさに手術とは医学用語である「侵襲」である事を改めて実感させられました。
 弓削ドクターは手術する外科医のそばにいて、患者の状態を細心の注意を払って常時管理する「麻酔科医」です。この弓削氏によって初めて麻酔科医がどんな事を手術中にしているのかが、詳しく把握出来ました。同時にこの麻酔科医がいてくれなければ、執刀医は予測出来ない事態に対して適切な対処が出来ないのではないかと思いました。それほど麻酔科医はあらゆる突発的な事態にも冷静に対応出来る、まさに「プロ」なのです。臨床で深い経験と知識を得ていなければ、おそらく一人前の麻酔科医として、自信をもって手術に臨む事が出来ないでしょう。その意味で麻酔科医は執刀医の「下働き」的な地位ではありません。
 筆者が「おわりに」という項で書いているように、私たち一般の人は手術や麻酔の事をほとんど知りません。そこでこの本が書かれた意義があるわけです。
 これから手術を受けようとする人々にとっては必須の書であると、経験者の立場から推薦しておきます。
 この本から知った事は幾つかあります。
 まず第一に全身麻酔の状態とは、①無痛、②有害な自律神経反応がない、③筋弛緩状態にあること、④可逆的であることだそうです。ですから呼吸は完璧に抑制され呼吸停止状態となるのです。つまり全身麻酔をすると呼吸しなくなるのである!という事です。この事実は全く知りませんでした。ですから手術中には当然にも人工呼吸が行なわれます。人工呼吸器操作だけでなく、頻繁に酸素バッグを握ったり緩めたりして調整するのが、麻酔科医の重要な仕事です。
 二番目にこの手術という「侵襲」により、血圧が低下し、肝臓を流れる血液量も減ります。肝細胞が低酸素状態になるという事です。これは様々な代謝機能を司っている肝臓には相当なダメージで、術後の肝機能障害を起こす可能性があるとの事です。私が最初に手術を受けた頃、C型肝炎を併発した患者さんが相当多くいましたが、C型ウイルス感染でなくても、肝機能障害を起こす事があるという点を知りました。
 三番目に手術をすれば当然出血しますから、それを止めようとして血栓が出来、肺血栓・脳血栓を起こす可能性があるという事です。
 四番目、手術を終えて縫合してしまえば、それでおしまいと考えがちですが、その後が麻酔科医の出番と言えます。つまり麻酔からの覚醒という事です。これが起こらなければ、手術は成功しましたが、患者さんは死にましたという事になってしまいます。
 私の場合最初の食道裂傷の手術では、覚醒は自然でした。1989年の大腸手術の後も、集中治療室ですんなり目覚めました。でも胆嚢除去手術では、まだ気管内挿管の状態で、無理やり起こされたという感じで、声が出ずもごもごしながら、多少苦しい思いをしました。
 最後に1976年段階で行なわれていなかった「持続硬膜外麻酔」に触れておきます。これがなかった為、最初の手術後の激烈な痛みでは「死んだほうがまし」という経験をしました。しかしその後導入されたこの方法で、覚醒した後痛みを感じる事もなく、新聞もすぐ読めるというほど痛みがコントロールされるようになりました。これはすばらしい事です。人間痛みがひどいと、心はそこにばかり集中して、他に何も考えられなくなるからです。
 というわけで大分知識が増して弓削ドクターに感謝すると共に、やはり人間はまだ母親の胎内にいる時から、創造主が完全に形造り、世に送りだされたわけですから、「私たちの齢は七十年。健やかであっても八十年」(詩90:10)とあるごとく、そのように健康に「生かして下さっている創造主」イエス・キリストを信じて、齢を全うするのが一番です。