ピロリ菌のCagA蛋白質と胃がん抑制蛋白質RUNX3
8月3日のサイエンス・デイリーのサイトに、「がんを引き起こす(ピロリ)菌<Helicobacter pylori>が、腫瘍抑制蛋白質を標的にしている」という題の論文紹介がありました。元になっているのはオンコジーン誌の電子版で、公開されているのはその要約です。
ピロリ菌と言えば、最近はすぐ胃がんを思い起こさせるほど有名になっています。しかしそれはごく最近の事でした。つまり1983年に二人の研究者により確定し、1994年胃がんの病原体である事が公表されました。その為この二人の研究者たちは2005年にノーベル賞を受賞しています。
私が胃を全摘したのが1976年で、その頃は全く詳細が知られていなかったと思います。ですから胃がんは深い潰瘍から発生するとか、いろいろ言われていたものです。ですから当時は潰瘍が進んだものはどんどん外科手術で切り取っていました。
それを考えると、この細菌がガンを引き起こすなどとは全くの驚きで、しばらく信じられませんでした。ですからその細菌の正体を突き止めた二人がノーベル賞を受けたのは、けだし当然でしょう。
そしてその後ピロリ菌の遺伝子の全て=ゲノムが解読され、研究はどんどん進みました。そのゲノムの中にcag pathogenicity islandという領域があり、そこに含まれる遺伝子cagAの作る蛋白質CagAが、胃に列をなしている上皮細胞に侵入し、その細胞の正しい機能を攪乱させているそうです。
また今回新たに胃がん抑制蛋白質RUNX3(アールュンクススリーと発音)が認定され、この発現が欠けると胃がんの発達を促進する事が分かりました。イリノイ大学チェン教授らのチームの功績です。
チェン教授はこのRUNX3蛋白質がまた転写因子(RNA転写に不可欠な調節蛋白質)の一つでもあり、ピロリ菌はこの転写活動に何らかの影響を与えているのではないかと想定しました。するとまさにCagA陽性のピロリ菌は、RUNX3の転写活動を抑制していました。そして細胞におけるRUNX3蛋白質の量を減少させていたのです。このCagA蛋白がRUNX3蛋白を劣化させ、胃がんなどの病気を引き起こすものと見られます。
このピロリ菌は人間だけでなく、ネコやハエにも見つかっており、人間への感染の元ではないかとの疑いはありますが、まだ確かな事は分かっていません。
聖書のヨブ20:14で、ツォファルという友人は「彼(=悪人)の食べた物は、彼の腹の中で変わり、彼の中でコブラの毒となる」という事を言っています。勿論譬えでしょうが、斜めに読んで見ると、何やら強毒蛋白質CagAを備えたこのピロリ菌感染の事を言っているようにも見えました!?