ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

黒木登志夫著『がん遺伝子の発見』を読む

 日進月歩の分子生物学の世界ですが、図書館で1996年発行のやや古い『かん遺伝子の発見』という本を借りて読みました。
 著者の黒木教授はなかなかの書き手であり、読者をぐいぐい引っ張って行く力を持った人であると思いました。それはがん遺伝子の発見に至るまでの多くの研究者たちの発想や努力、一番乗りを目指す競争などを巧みに描いていて、読者に科学の基本である「なぜ?」を考えさせてくれるからです。その意味では少し古くても、新鮮な印象を持たせてくれる不思議な本です。
 黒木氏は東北大医学部卒、東大教授を経て、長く岐阜大学の総長を勤め、その間に『落下傘学長奮闘記』なるものを書いています。これをはてな日記のアカマックこと赤間先生が紹介しているサイトを見て、今度是非読んでみようと思っています。
 この本でマークした箇所は多くありますが、特に第六章の「がん抑制遺伝子の働き、そして遺伝」が勉強になりました。ここで登場するP53というがん抑制遺伝子は、今でも盛んに研究されています(「がん抑制遺伝子p53の新しい制御機構を発見」=九州大学の文書も非常に分かりやすいものです)。
 P53という名前は蛋白質を意味する英語の頭文字Pと分子量が53,000あるという事でつけられた「平凡な名前」だったそうです。黒木氏はこのP53が最初がん細胞から見つかったため、がん細胞に特異的な核蛋白と考えられていたと述べています。ところが研究が進むと、それは事実に反する事が判明しました。即ち正常なP53遺伝子と変異を起こしたP53遺伝子を比べて見ると、前者は変質した細胞を正常な細胞に逆戻りさせ、後者は細胞を変質させる事が出来ました。そしていろいろ調べて見ると、変異を起こしたP53遺伝子はヒトのがんから相当見つかる事が分かりました。ヒトのあらゆるがんのうち50パーセントから見つかるそうです。
 それを解釈すると、この遺伝子はがん遺伝子ではなく、がん抑制遺伝子である事が判明しました。
 がん遺伝子とがん抑制遺伝子とは紛らわしい名前ですが、黒木氏はその違いを整理しています。両者は本来細胞の増殖と分化を調節している大事な遺伝子です。ところがその遺伝子が変異すると、両者ともがんになります。しかしがん遺伝子の場合、変異が起こると活性化され、新しい機能を獲得しますが、がん抑制遺伝子では不活化すると機能を失うという違いがあります。しかも父母由来の2つの対立遺伝子において、片方の遺伝子の変異だけで、がん遺伝子は活性化されますが、がん抑制遺伝子の場合、対立遺伝子の片方が変異しただけではがんとならず、もう一度変異が起きてペアの両方がやられ活性化を失った時、がんになります。
 そのがん抑制遺伝子として重要なP53は、上記九大の論文から借用しますと、「細胞内情報の極めて複雑なネットワークの集積点に位置し、がん遺伝子の異常活性化やDNA損傷、酸化ストレスなどの異なった入力情報に応答して、DNA修復や細胞増殖停止、老化、アポトーシス(自爆プログラムにより細胞を殺してがん化を防ぐ役割を担う)などの適切な出力プログラムを開始します。特に、細胞ががん化するとp53によるアポトーシスが起こり、がん細胞は死滅します」とあります。ですからP53は遺伝子王国の防衛役を担っている大切な遺伝子です。「主たる監督者」「防衛役の天使遺伝子」などとも呼ばれています。
 これは聖書で言えばまさに主イエス・キリストの働きのようです。主は弟子たちの群れの監督者です。
 「あなたがたは、羊のようにさまよっていましたが、今は、自分のたましいの牧者であり監督者である方のもとに帰ったのです」(ペテロ第一2:25)。
 その救い主が十字架で断たれた時、弟子たちは「不活化」してしまい、暴徒と化した群衆がはびこりました。しかしイエスが復活されると、弟子たちはまた「活性化」し、弟子としての任務に忠実になりました。福音は全世界に宣べ伝えられました。そして今も主イエスは人の心という壊れたDNAを修復しておられます。
 P53遺伝子は創造主の下、ヒトの身体の中で大変重要な役割を担い続けています。この巧妙な仕組みで守られている事を感謝しましょう。