ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

狩野恭一著『免疫学の時代』を読む

 この狩野先生の著作も1990年発行というやや古いものです。内容はかなり難しいですが、私が臓器移植手術で批判した時触れた主要組織適合遺伝子複合体(MHC)とヒトの場合のHLAについて、やや詳しく述べられており、大いに参考になりました。
 しかしこの本で私が注目したのは、最後の第七章「始めと終わりの物語」です。これは第三章において「胎児は、母親にとって他人である父親の遺伝子を半分持っているので、生物学上は母親にとっては他人である」と述べられた事について、この章で突っ込んだ考察をしたものです。免疫学的には母親(自己)にとって、胎児(非自己)は本来なら母親の免疫系を総動員して排除すべき対象ですが、実際にはそうならない、これはまだまだ謎に満ちた現象ですが、奈良県立医科大学法医学教室石谷昭子氏などによる研究がなされています(http://www23.atwiki.jp/kqarto/pages/37.html)。
 しかし狩野先生の中公新書での説明は20年前とはいえ、基本的に変わりありません。
 ウイキペディアによると、免疫反応に必要な多くのタンパクの遺伝子情報を含む大きな遺伝子領域を主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼び、そこから主要組織適合遺伝子複合体抗原が産出されますが、人間の場合その抗原の事をHLAと呼んでいます。そこにはクラス1抗原とクラス2抗原の2つが存在します。その概略は以下の通りでウエブの画像から拝借しました(http://hwm6.gyao.ne.jp/sarah/homepagedirec/immuno.html)。

 狩野先生は第七章冒頭で「われわれの免疫系は、自分のもの以外の同種抗原、すなわち他人の血液型やHLA抗原をもった細胞や組織が持ち込まれると、直ちにこれを認識し攻撃を開始して、二週間以内に破壊してしまう。この原則の唯一の例外は妊娠であり、それは種族の保存にかかわる重大な例外である」と言っています。私はそこに創造主が人間をあらゆる免疫系を備えて造っておきながら、母親(自己)が胎児(非自己)を守って無事出産させ、「生めよ。ふえよ」(創世1:28)と言われた事への、極めて重大なみこころを見ます。
 狩野先生の説明によると、受精卵が胚盤胞と呼ばれる段階で子宮内膜の上皮細胞に接着すると、胎児由来のトロフォブラストという組織がそこを貫通し、内膜下に到達し、そこにある脱落膜組織と反応・増殖し、両者一体となって胎盤が形成されるとの事です。
 ところがこの胎盤に於いて、胎児の血管と母親の血管は決して結合した状態になりません。そしてこの胎盤こそ免疫系にとって特別な場所なのです。ちなみにその胎盤組織を子宮以外の別のところに移植しても、たちまち免疫反応で拒絶されてしまいます。
 非自己である胎児には、既にHLA抗原が存在し、トロフォブラスト、胎盤を通し、母親(自己)の血管に入ります。当然HLAのクラス1、クラス2抗原に対する抗体反応が母親に生じます。この抗体産生は子宮内のリンパ節腫脹で分かります。逆に胎児の側には母親の免疫細胞は全く入ってゆけません。
 ゆえにこのHLA抗体は胎児に全く影響を及ぼさないだけでなく、胎児の正常な発育を助けるよう制御されているという驚くべき事実が示されます。
 そして上記石谷ドクターによると、このタイプ1に属するHLA−Gこそ、母体の免疫学的拒絶から,半移植片としての胎児を保護しているのではないかと推測されています。それこそがトロフォブラスト上でのHLAの役割を一手に引き受けているらしいとの事です。
 さらに受精以前の精子ですが、当然母親の免疫系が総動員され、非自己として排除しようとするでしょうが、実際そうならない為の巧妙な仕組みが精子表面にあって守られているそうです。
 人間が地上に増える事を目指した創造主が生殖系でこうした驚嘆すべき母体と胎児の保護を行なっておられるという事実(進化論では想像も出来ません)を知って、改めて創造主である神をほめ讃えます。