ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

裏切りという普遍的なテーマ

 図書館で藤本ひとみ著『人はなぜ裏切るのか』という本を見つけ、早速借りて読みました。初めての著者なので、ネットで調べると結構漫画を含む書物を書いています。この本は「ナポレオン帝国の組織心理学」という副題がついており、内容はナポレオン時代に彼を裏切った7人の人物を登場させています。
 フランスの歴史に詳しい人ですが、ナポレオン史研究学会会員という肩書きも持っています。日本人としては初めてだそうです。
 この「裏切り」というのはかなり普遍的なテーマであると思います。何より聖書でも「イスカリオテ・ユダ」の裏切りで有名です。
 藤本氏はナポレオンを裏切った人々について、各章の終わりでその動機についての簡単な心理分析を行なっています。なるほどと思わせる箇所が幾つかありました。
 ここでは7人全てについて述べるスペースがありません。そこで特に印象に残った最初の登場人物ジョアシム・ミュラを取り上げたいと思います。
 彼は信心深い母親(カトリックでしょう)の意向、つまり司祭にしたいという願いに従って10歳で神学校に入り、17歳で卒業してから、さらにラザルス会の宗教学校に入学しました。そこまでは順風満帆だったのでしょうが、19歳の時悪魔の誘惑を受けて、この学校を退学する羽目に陥りました。
 それから彼は乗馬を覚えて経験もあり、軍隊に入ります。そして紆余曲折を経て、猟騎兵隊の中尉となりました。彼の母親の信仰心は萎え、彼自身もおそらく真の信仰に向かう事はなかったのではないかと思います。
 その頃ナポレオンとの邂逅がありました。そしてナポレオンの臣下として敵との戦いに出向きました。戦功を立てた彼はナポレオンの妹と結婚し、ナンバーツーの副官として、数々の戦いを勝利に導きました。プロイセン、ロシア、スペインと、そこまでは破竹の勢いだったのですが、ナポレオンが本格的なロシア遠征を決行してから風向きが変ります。撤退を繰り返しながら、反撃の機会を求めていたロシアには、『戦争論』で有名なクラウゼビッツもいたそうです。
 結局戦いはロシア優位となり、ナポレオン軍は撤退しました。しかし大陸軍を再編成したナポレオンは、ドレスデンで反仏同盟軍と対峙します。その時オーストリアはミュラへの誘惑をしました。ミュラはこの誘惑に負けてナポレオンを裏切る事にしました。
 しかし実際オーストリア及ぶイギリスと同盟を結び、その署名をしようとする時、ナポレオンへの裏切りという事で激しく動揺したようです。
 その後間もなくナポレオンは退位し、その帝国は瓦解しました。しかし再起したナポレオンにミュラは再び接近しようとしました。でも彼から拒否されました。その後のミュラはオーストリアと戦って敗北し、逮捕され銃殺刑となったのでした。
 藤本氏は彼の悲劇の裏に妻カトリーヌの影を見て、その裏切り行為を分析しています。しかし私はこのミュラにイスカリオテ・ユダを重ねています。ミュラは信仰の面では挫折したと思われますが、ユダもイエスの真の弟子とはなれませんでした。そしてイエスの十字架刑の前に裏切り、その事で激しく動揺しました。結局彼はイエスのみもとに復帰せず、自ら首を括って自殺したのでした。ミュラは死刑でしたが、ユダは自ら命を絶ったのでした。
 「そのとき、イエスを売ったユダは、イエスが罪に定められたのを知って後悔し、銀貨三十枚を、祭司長、長老たちに返して、『私は罪を犯した。罪のない人の血を売ったりして。』と言った。しかし、彼らは、『私たちの知ったことか。自分で始末することだ。』と言った。それで、彼は銀貨を神殿に投げ込んで立ち去った。そして、外に出て行って、首をつった」。
 このユダの裏切り行為は信徒としての私たちにも適用されます。ピンチに際して自己の救い主イエス・キリストを裏切る事があり得るという事です。これは普遍的なテーマではないでしょうか。大いに自戒したいものです。