ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

小泉武夫氏の『灰に謎あり』を読んで

 小泉武夫氏が発酵学・醸造学の権威である事は知っていて、これまで聖書との関連で新聞投稿記事や発酵に関する著作を読んだ事がありますが、11月23日のブログで松戸市の剪定枝焼却による灰の処分について書いたところ、iireiさん(http://d.hatena.ne.jp/iirei/)から氏の『灰に謎あり』という本を紹介して頂きました。きよさを保つ、きよくするというのは聖書でも極めて重要な事柄ですが、氏はそれを灰という側面から徹底的に追及しており、画期的な書物だと思い、新たにブログに記した次第です。iireiさんには心から感謝致します。死の灰にも触れていますから、この日本中が放射性汚染灰について関心を寄せている時、是非お勧めの一冊と言えます。また聖書学を専攻した方々には、特に旧約理解の為にも必須だと考えます。
 茨城の鉾田にいた時、有機農法にのめり込み、その肥料及びヨシなどの雑草を焼いて出来た灰を混ぜて種を蒔くと、連作でも大きな収穫があり、灰の威力を感じたものでした。またジャガイモの葉を見つけてそこを掘り、芽のあるものを半分にしそこに灰を塗って地に埋めると、放っておいてもまた増えてゆくのを目の当たりにし、なぜ灰を塗るのかずっと疑問に思っていましたが、この本を読んで解決しました。付箋は一杯ありますが、聖書に関連する箇所を重点に、選択してゆきます。
 まず日本人の好む清酒(せいしゅと読まず、すみさけです)は、江戸時代の産物ではなく、平安時代初期にまで遡るとの事です。これは醸造に失敗し酸味の強くなった酒の中和の為木灰を加えると、澄んできれいな酒に戻るという経験的事実があったからでしょう。一方ぶどう酒製造では灰の使用例があまり見当たらないと氏は言います。それは中和の必要がないからです。それ故聖書地で盛んなぶどう酒醸造でもそうした例は見かけません。
 次は灰乾しわかめです。新鮮なわかめでも放置しておけば腐りますが、今から150年前鳴門の行商人が長持ちさせる方法を生み出しました。それは新鮮なわかめに灰をふりかけて乾燥させるという手法です。これは灰の持つアルカリ性が「保存効果」を発揮し、また「新鮮さを保つ」という発色効果もあるからだそうです。これはクリスチャンのきよさを保ち、しかもいつも新鮮な感覚を保つという事柄の比喩として使用出来ます。
 三番目。動植物食材を煮た時出て来るアクの処理で威力を発揮する灰汁(草木灰を水で溶いた上澄液又はその濾過液)です。これを食材に混ぜて苦味を除くと、本来の味が取り戻せるわけです。聖書に重要な例があります。
 「しかし、おまえの上に再びわが手を伸ばし、おまえのかなかすを灰汁のように溶かし、その浮きかすをみな除こう」(イザヤ1:25)。
 ここでボルというヘブル語が灰汁と訳され、ここは「灰汁で行なう時のように」という訳に近いです。イスラエルから汚れを除く譬えで用いられました。
 四番目。染色と布晒しでの灰汁の効用です。染色では色素成分と化学結合し、色彩を鮮明にします。また布晒しでの使用で「白くなること雪をあざむくべし」とある明治時代の秘伝書を氏は引用しています。下記聖書箇所は灰汁の使用を示唆しています。
 「御衣は、非常に白く光り、世のさらし屋では、とてもできないほどの白さであった」(マルコ9:3)。
 「たとい、あなたがたの罪が緋のように赤くても、雪のように白くなる。たとい、紅のように赤くても、羊の毛のようになる」(イザヤ1:18)。
 五番目。やきものと灰の利用です。ろくろで作成した土器を窯の還元炎で焼くと、灰がその表面に皮膜を作りますが、それは自然に出来た釉(うわぐすり)です。それを応用して陶器師はあらかじめ多様な灰釉を作り土器に塗ってその芸術性を高めているのです。ちなみに聖書の時代は酸化炎を用いた素焼きの土器であったと思われます。またしばしば陶器師が神、器が私たち人間に譬えられています。この項で極めて重要な事実を発見しました。用いる灰は植物灰だけでなく、動物灰も使われるとの事で、牛の骨を焼いて作った例があるのを氏は述べた上で、こう言っています。「中でも牝牛の背骨灰…焼き上がりの色調を十分に楽しませてくれるものとして重宝されている」。牝牛(雌牛)の灰が重宝されていた事がここから分かります。それは色調の事もさりながら、やはり「きよめ」や「保存」という灰の共通する性質にも関わって来るものと思います。それで聖書の謎が氷解した思いがします。
 「身のきよい人がその雌牛の灰を集め、宿営の外のきよい所に置き、イスラエル人の会衆のため、汚れをきよめる水を作るために、それを保存しておく。これは罪のきよめのためである」(民数19:9)。
 この箇所はパウロにより、ヘブル書でも引用されています。
 「…また雌牛の灰を汚れた人々に注ぎかけると、それが聖めの働きをして肉体をきよいものにするとすれば」(ヘブル9:13)。
 こうしてみると、聖書の神は灰や灰汁の持つ性質を良くご存知で(ご自身が聖なる方なので)、早くから人々にその使用法を伝授しておられたに違いない、という事が分かります。きよさ、保存性、鮮明さ、汚れの除去で、灰はその威力を発揮します。