ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

柳澤協二著『検証官邸のイラク戦争 元防衛官僚による批判と自省』を読んで

 「平和をつくる者は幸いです。その人たちは神の子どもと呼ばれるから」(マタイ5:9) 
 今盛んに論じられている集団的自衛権の源流を探りたいと思い、この本を借りて読みました。

 画像はpub.ne.jpより借用。
  著者の柳澤氏は東大法学部卒業後、防衛庁に入りました。2004年から2009年まで内閣官房副長官補として、自衛隊イラク派遣を統括した人です。
 この本ではアメリカによるイラク武力行使小泉政権が支持し、自衛隊を派遣した過程を、自省を込めて検証しています。
 2001年米国で9・11同時多発テロが発生し、時の大統領ジョージ・W・ブッシュは、アフガンを根拠地とする国際テロ組織による犯行と断定し、翌日には国連安保理は「テロリストに対する自衛権行使を事実上容認する安保理決議」を採択しました。米国議会も「テロとの戦いのため大統領が必要と認める武力行使」を、圧倒的多数の賛成で可決しました。
 それを踏まえ米国は翌10月にアフガン戦争を始め、短期間でそこを制圧し、タリバン政府を崩壊させました。そして次の標的をイラクとしました。「大量破壊兵器」保持による脅威が理由で、2003年戦争を始め、これも5月には「大規模戦闘終結宣言」を出し、一見勝利しました(でも戦いは泥沼化し、2010年オバマ大統領はそこでの戦闘任務終了を宣言しましたが、戦闘は今も続いています)。
 このイラク戦争を日本は強力に支持しました。そこから集団的自衛権の本格的論議が始まったように見えます。
 柳澤氏は、「イラク戦争は、アメリカにとっては、『テロによる暴力対自由』というイデオロギーの戦争であったが、日本にとっては…大量破壊兵器の脅威に対して日米同盟を維持する以外の選択肢はないという、『安全保障上の国益』の観点から」の戦争だったと回顧しています。時の総理小泉氏は、いち早く自らの決断でアメリカの武力行使の支持を表明しました。
 そして2003年7月、「自衛隊イラクの戦後復興支援に派遣するためのイラク特別措措法」を成立させました。
 柳澤氏は小泉首相が「集団的自衛権の行使を認めるのであれば、憲法を改正したほうがいい。だが、今そのような情勢にはない。その中で、憲法の前文と憲法9条の隙間、あいまいな点があるところを、知恵を出し合って、日本ができることをやるということを考えている」という事を記しています。
 そこで出て来たのが、イラクでの「給水、医療支援、道路や学校などの補修作業」という限定的な役割で、翌2004年に自衛隊サマーワに派遣されました。
 柳澤氏は「日本はイラク自衛隊を派遣して軍事的リスクを共有する本格的な同盟国となった。日米同盟は『世界の中の日米同盟』として『深化』し、かつてない『最良の同盟関係』を実現した…アメリカがリードする世界において、アメリカに協力することによって日本の国際的威信を高める好機となるはずであった」と言っています。
 勿論イラクでは戦闘の標的にされる危険性が発生します。当時内閣府に移った柳澤氏は「イラクの人々を助けることは必要だが、自衛隊員の生命をかけてまでやることではない」と言いました。その後まもなく現地の治安は急速に悪化してゆき、2006年6月政府は陸自イラク派遣の活動終結を決定しました。それから3か月後安倍政権が成立しました。
 2007年4月柳澤氏は安倍首相に「集団的自衛権の見直しに関する有識者懇談会の設置を指示された」と言っています。それに対し柳澤氏は、「そのような事例は個別的自衛権でも可能で…」と再三説明しています。安倍氏は応じませんでした。
 その後「アメリカは2008年5月ころから、日本に対し、アフガニスタンにおける自衛隊の支援を打診して来た。それは、イラクのような『名目的・象徴的』なものではなく、『実質的』な貢献を求めるものだった」。これまでより一歩踏み込んだ危険な提案だったと思います。その時の福田総理はあまり乗り気ではありませんでした。
 2008年末米国でオバマ大統領が選出された後、自衛隊派遣はもはや「全く聞かれなくなった」そうです。不幸中の幸いというべきでしょうか。
 でも2009年の麻生総理の時、柳澤氏はその意向を受け、「集団的自衛権行使を可能にする旨の文案を作成」してはいます。それをもって柳澤氏は退職し、自省を込めてこの本を書き、各地で講演なども行っています。
 現在柳澤氏によれば、米国は「対テロ戦争」から完全撤退しようとしており、中国との間で新たな大国関係を模索しています。尖閣をめぐる日中韓の紛争には巻き込まれたくありません。ですから柳澤氏は「『集団的自衛権の行使』の容認は、米国との利害関係にも矛盾すると指摘」しています。
 さらに北岡伸一氏との論争では(http://blogos.com/article/74682/)、北岡氏が「日本が集団的自衛権を行使できないせいで、日米は1つのチームとして動けない」と述べたのに対して、解釈変更で集団的自衛権の行使を認めようという安倍内閣の方針を「理解できない」と突き放しています。さらに「集団的自衛権は、単に日本にとって必要ないというだけでなく、アメリカからも求められていない」と述べています。
 ブロゴス・コムサイトでは続けて「柳澤氏によると、アメリカはいま、中国の軍事的覇権を阻止する一方、中国との経済関係は強化するという基本戦略をとっている。つまり、自国の軍事的優位が中国に浸食されつつあると認識しながらも、中国を『敵』であると定義することはできないのだとする。同盟国であるアメリカがそういう戦略をとっているにも関わらず、日本が中国の軍事的脅威を理由に、集団的自衛権の行使を認めようという姿勢をとることは、逆に『アメリカの懸念を呼び起こす』という。 柳澤氏は『安倍首相は憲法解釈の解釈変更によって、戦後の日米安保体制が持つ矛盾を一挙に「解決」しようとしているのではないか。歴史認識を見直し、憲法を見直すことに、アメリカからの自立というモチベーションが含まれているとなれば、同盟国アメリカとの認識のギャップはますます大きくなりかねない。それが私の最大の懸念だ』と述べています。
*現在矛盾を孕んだ集団的自衛権をその発端から探ってみると、わりに理解出来るという点で貴重な1冊だと思います。