坂本龍一×東京新聞 脱原発とメディアを考える
「わたしが暗やみであなたがたに話すことを明るみで言いなさい。また、あなたがたが耳もとで聞くことを屋上で言い広めなさい」(マタイ10:27)。
これは東京新聞編集局が企画した、作曲家坂本龍一氏と記者たちとの「白熱討論」です。
画像はウイキより借用。
坂本氏は都立新宿高校時代から学園闘争に関わった反骨の人です。3・11より10年ほど前から環境保全運動に関わり、2006年には早くも「STOP・ROKKASHO」イベントを行い、青森県六ケ所村再処理工場の危険性を訴えていました。原発事故後の2012年には「NO NUKES 2012」という脱原発のイベントも行っています。デモにも積極的に参加しています。
この坂本氏に目を留めた東京新聞の記者たちが、本社1階にある小ホールに集まり、坂本氏と熱い討論を行いました。それを本にしたものが上記の題になっています。かなり売れ行きは良いみたいです。東京新聞を読む事の出来ない地域の人々は、この本から記者たちの熱意を嗅ぎ取って下さい。
以下は坂本さんが東京新聞に出した注文と記者たちの応答などを要約したものです。
まず坂本氏は東京新聞が全国紙に比べ、原発・政治等を問わず、非常に信頼されている事を述べた上で、いかに読者を広げて行くかという点では、「左翼」とくくられない工夫が大切だと述べています。まずもって福島のおじいちゃん、おばあちゃんが気楽に読めるような、或いはデモなら参加出来るような工夫が必要であると言っています。デモが少人数になると、急進的な人々が残り、ますますそこに入りにくくなるという意見には、私も自戒しなければと思いました。
次に原発の汚染水の件ですが、安倍首相が「制御出来ている」と真っ赤なうそをついても、海外の名だたるメディアは沈黙してしまいます。せっかく東京新聞が真実を暴露しても、英語で報道しないから、どうしても限界が生じます。だから坂本氏は自ら良い記事があれば、英文に訳して伝えざるを得ない事を言っています。海外に「『毎日300トンの汚染水が漏れている』と言ったら驚愕しています。そういうことさえ伝わっていないので、ぜひ発信してほしい」と注文しています。
東京新聞が頭の痛かった点は、本社を環境負荷の少ない会社にするにはどうしたら良いかという事でした。それまで蛍光灯などをLED化させ、トイレから電動エアタオルを無くし、外壁を遮熱塗装にし、エアコンは夏の設定28度以下、冬は24度までにしました。またOA機器は台数を減らし、最新機種に替えたりしました。しかし記者の一人が言うように、日本は原発事故後も、フランスなどに比べ「明る過ぎる」し、ドイツがやっているような、小さい時からの環境教育として節電意識を持たせようとしているのに、日本はまだまだそれが遅れていると指摘しました。でも坂本氏は、大人こそ率先してやるべきだと主張しました。そして「節電で東京が暗くなった」と言えば、惨めな気持ちになるけれども、「こういういいことがある」と、積極的に書いてゆく必要があると述べていました。
またスポーツ選手などが、これで元気にしてやろう、それは被災者のためだなどと言っているのを耳にするそうですが、それは不遜な考え方だとチクリ。被災者の受け止め方は様々だからです。私もそう思いました。常に謙虚な気持ちで、被災者の方々の気持ちを忖度しながら接する事が大切でしょう。
という事で、この本の約2分の1が白熱討論に費やされ、後はその討論実現に至るまでの過程や、坂本氏の提言を受け、
記者たちの多様な論議がありました。そして終わりに村上龍氏、内田樹氏、國分功一郎氏、津田大介氏、堀潤氏の提言が、短い文章ではありましたが、掲載されていました。坂本氏の指名による5人でした。
200ページに満たない本でしたが、坂本氏と記者たちとの間の白熱討論という特異な形のものを収めている点で面白かったという印象です。