ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

中西準子氏の考える帰還目標年間5ミリシーベルト

 「さばいてはいけません。さばかれないためです。あなたがたがさばくとおりに、あなたがたもさばかれ、あなたがたが量るとおりに、あなたがたも量られるからです」(マタイ7:1−2)。
 2015年8月23日の東京新聞の「あの人に迫る」シリーズでは、『早期帰還めざし線量の見直しを」という見出しで、環境リスク学者中西準子横鼻国大名誉教授が、記者の質問に答えていました。
画像は郡山市公式ホームページより。
 中西氏は東大工学部都市工学科助手の時に、わがメル友iireiさんの指導教官でした。『環境リスク学』で毎日出版文化賞を受賞し、その方面ではよく知られた人です。
 独特のリスク論から、御用学者とのレッテルも貼られているのですが、「戦争継続は無理」という報告書を書いて治安維持法で逮捕投獄された父親の血を受け継いでいる信念を貫く人です。ネットを見ても、中西氏を裁く人はあまりに安易ではないかと私は思っています。
 東京新聞のインタヴューで出て来た除染・帰還のための新たな放射線量目標値を、従来の年間1ミリシーベルトから5ミリシーベルトに引き上げよという提言は、実は今年ではなく昨年出版された『原発事故と放射線のリスク学』に載っているもので、今年の新たな提言ではありませんでした(*これについては、図書館に予約を入れ、これから読むところです)。
 本来本を読んでから私の主張をという事になるのでしょうが、本日は東京新聞上記の記事と、ネットにあった毎日新聞の『「原発事故と放射線のリスク学」を著した中西準子さん」というインタヴューから考えてみました。毎日のほうがやや詳しいです(既にネットでは削除?)。
 なぜ年間5ミリシーベルトなのかという点について、中西氏は「簡単に除染できないことが既に分かっているので、1ミリシーベルトを帰還の目標にすると、ほとんどの人がいつ帰れるのか分からない…だから、被災者の人生の大切な時間が奪われないよう、なるべく早く帰れるような条件と根拠を探り」(東京新聞)とあって、そこから出て来たものです。勿論中西氏は年間20ミリシーベルトというのは、「原発などで通常時に働く人たちの被ばく量限度…長期に生活していく上で許容できるような数値ではないと私は考えます」と言っています。しかし政府は昨年12月の南相馬市(特定避難勧奨地点)について、「除染により線量が年間20ミリシーベルトを下回った」として、指定解除・支援打ち切りという暴挙を行いました。今後も年間20ミリシーベルト以下という指針を貫くでしょう。
 中西氏の考える放射線リスクは、「一生涯の被ばく量が広島、長崎の被曝者の追跡調査で明確にリスクが増加するか分からないとされている100ミリシーベルト以下にするというのが大前提」とし、そこから除染費用その進捗状況、他の諸々の要素を鑑みて、現場に即した考えで行けば、「除染して5ミリシーベルトまで下げることができれば、その後、放射性物質が物理学的に崩壊したり、雨や風で流されたりして自然に減少していきます。15年後には年間1ミリシーベルトまで減ることが見込めます。そうなれば100ミリシーベルトを超えることはありません。そして、帰還を望む人が帰ることができる数値です」と主張します。
 この2015年8月23日の東京新聞記事に対して、早速たんぽぽ舎ボランティアの清水寛氏は、居住区の「周りや森は除染されていなければ、居住区が徐々に汚染され、元の濃度になる可能性もある」と述べ、黒のフレコンバッグについては、「数年後には破れて拡散する危険性もある」と推測しています。そして「罪のない避難者に5ミリシーベルトのリスクを背負わせる考えは、政府と電気事業者を擁護するものである」と、中西氏を手厳しく非難しています。
 これらの意見について、私は福島二本松除染の経験からこう考えます。中西氏は年間20ミリシーベルトでは、帰還して長期に生活してゆくのに許容出来る数値ではないと言われました。しかし実態は南相馬の例でも分かりますが、福島の広大な森林で、年間20ミリシーベルトを超える箇所は多くあり、そこは到底除染の届く範囲ではなく、仮に除染でそれを下回ったとしても、タンポポ舎の清水氏が言う元の濃度になるのは、「可能性」の問題ではなく極めて「現実的な問題」と考えます。それで中西氏の言う除染して5ミリシーベルトというのは、市街地を含む幸運な「逆スポット」以外、事実上不可能と考えます。また放射性物質の物理学的な崩壊とは、半減期でおなじみの指数関数的な減少を指すと思いますが、これは福島第一原発の深刻な地下水汚染など、あらゆる原子炉の問題が解決し、もうこれ以上汚染はないという時点で論議出来る事で、いまだ汚染水(トリチウムという非常にやっかいな放射性物質を含む)対策が全く出来ていない状況では、あり得ないと考えますし、雨や風で流されたりしたら、逆に低地帯での線量は上がります。 また15年間の75ミリシーベルトが1ミリシーベルトになるのも不可能でしょう。むしろ100を超えてかなりの数値になると推測します。中西氏の机上の計算は、実際森林除染に携わってみれば、必ず変わってくるはずです。
 清水氏の言うフレコンバッグが「数年後には破れて」というのは現場を知らない人の推測で、既にいたるところ破れており、汚染は低線量でも広範に拡大しています。そして「罪のない避難者に5ミリシーベルトのリスクを背負わせる考えは、政府と電気事業者を擁護するものである」との非難も、的外れと考えます。
 安倍政権は東京五輪までに避難者を出来る限り福島に帰還させ、福島問題はもう落ち着いたとアピールしたいのでしょうが、全くの無理難題です。
 むしろ上記清水氏の「(年間)1ミリシーベルト以上のところは居住困難区域とし、政府と電気事業者が避難者の保障をすべきことである」というのは、注目すべき提言だと思います。しかしもし中西氏の言う年間5ミリシーベルトの地域が存在し、帰還を望む人々が現れれば、依然として健康上のリスクがあるわけですから、それらの人々に対しても、政府と電気事業者が帰還者の保障を行うべきだと考えます。