ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

『原発を止める人々』(小熊英二編著)を読んで

 ダビデイスラエルの全家は歌を歌い、立琴、琴、タンバリン、カスタネット、シンバルを鳴らして、【主】の前で、力の限り喜び踊った」(サムエル第二6:5)

 SPYBOYさんのブログからの紹介(http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/mobile?date=20150810#1439206007)で興味を持ち、8月20日の東京新聞が大々的に紹介した事で、一挙に私も読もうと決心した『原発を止める人々』(小熊英二監督の映画。文芸春秋社から単行本でも出ています)ですが、あまりに刺激が強く、ほぼ全頁に付箋が貼られ、やっと読み終えました。詳しい書評はSPYBOYさんが記しているので、私はまた別の視点から思った事を述べてみたいと思います(とはいえ脱線ばかり)。左画像はhttp://www.magazine9.jp/interv/oguma/から借用。
 圧巻は最初のほうにある50人「それぞれの証言」です。この貴重な証言、一人ひとりの文章をくまなく読みました。なにせ3・11の原発事故以来、職業活動家以外の「普通の人」が一人ひとり立ち上がってデモに参加してゆく、それを克明に記録したという点で、実に画期的な本となりました。なぜそこにこだわったのかと言いますと、私自身がかつてノンポリ→デモ参加者への変身となった経験があったからです。その経過を短く記しますと、以下の通り。
 受験校にいながら、社会科の科目選択で差別を受け、相当数の人が国立を目指す中、私立早稲田だけに絞って勉強し、他はサボりまくり、受かったものの思い直して国立をという事で、浪人中に母親が狭心症で倒れ、夢かなわずM大学の考古学科に入学(1年上の落合恵子さんは学科は違うものの、入学の動機は私とほぼ同じ)、大学の教授を目指して語学から一般教養まで、教室の最前列に座って、勉強・勉強に明け暮れていた毎日でした。戦前の旧制一高の教養主義に憧れての事もありました。
 1968年頃から活発になった学生運動は、私の邪魔になるばかりで、ノンポリとしてクラス会ではバリケード封鎖反対、体制支持の右派の筆頭でした。そこを社学同などの闘士にターゲットにされ、つるし上げられました。しかしその中で極限の選択を迫られた時、彼らの主張の正しさを認めざるを得なくなり、180度転換して全共闘に加わり、デモにも初めて参加するようになったのでした。
 こういう経験があった為、上記50人がどんな動機から反原発の運動に関わるようになったのか、非常に興味深く感じ、熟読したのでした。
 その一人ひとりを取り上げるスペースはありません。ただ小熊英二氏が最後近くのページで分析しているように、意外と私のようなタイプは多くありませんでした。今の学生主体のシールズに属するような人々には居るのでしょうが、この本の時点ではまだ発足しておらず、取り上げられていません。大体30〜40代が中心で、「職業的には、自営業・専門職・フリーランス外資系・経営者・派遣社員・農民・大学講師・主婦など、時間と勤務形態に自由がきく形態が多い」という事で、「運動でなくても『何かを自分で企画してやったことがある』という者が多いといえる。そうした人間のほうが、震災と原発事故という突発的事態にさいして、何らかの動きをすることが容易だった」とあります。これはなるほどと思いました。
 この毎週金曜に首相官邸前で行われている首都圏反原発連合のデモを始め、全国各地で自発的に起きている多様な運動を、小熊氏は「世界に類例のない形態」と評価しましたが、さすが学者であり活動家でもある小熊氏の鋭い考察だと思い、私としてもへえ〜と驚いたものでした。4年半近く経過し、膨大な資料が蓄積されているにもかかわらず、福島は忘れ去られようとしています。それをアーカイブとして残すという意味で、映画だけでなく、書物としても画期的なものです。
 実は私たちが活動していた頃も、数え切れぬビラや文書が飛び交ったものですが、当時の謄写版で自らの意思を書き綴ったものが残っていません。しかし東大闘争に関して言えば、当時の議長山本義隆氏が、逮捕後全くマスコミから姿を消していたものの、その間せっせと当時のビラ等を集め、『東大闘争資料集』全23巻を編集し、国会図書館に納めていたのでした。アーカイブものとしては、これが嚆矢だったかも知れません。
右画像山本氏。

 そしてこの首都圏反原発連合結成の背後には、そのスタイルの元となった東京杉並区高円寺のリサイクルショイップ『素人の乱」経営者松本哉(はじめ)氏の存在が大きかった事も、挙げられます。私は2008年頃朝日新聞でこの人の存在を知りました。この頃から太鼓やドラムが登場しますが、その音のインパクトも極めて大きかったようです。
 この本にはまた3・11当時の首相だった管直人氏との対談もありました。管氏については様々な情報が行き交っていて、どれが真実だか分からない面が多々ありましたが、小熊氏との対談で原発を巡る真実の一端がよく見えて来たと思います。その意味で貴重な記録ではありました。
 とにかくこの本、最初から最後まで読む価値があります。これから反原発デモに参加したいと思っている若い方々にも、大いに参考になるに違いありません。