教訓残した日航機事故
家に散らかっているスクラップブックを整理し、要らないものを捨てている時、1985年9月19日の熊本一規氏(当時和光大学講師)による記事を発見しました。
熊本一規(くまもと・かずき)氏は1949年生まれ、ブログ仲間のiireiさんと同じく東京大学工学部都市工学科を卒業、大学院を修了し、その後もずっと環境政策・環境経済を研究し続け、横浜国大非常勤講師を経て、現在明治学院大学で教鞭をとっています。
熊本教授は「社会の仕組みを常識とは違う角度から見て、社会の裏に潜む真実を探す」事に長けていて、明治学院大学の名物教授だそうです(http://www.wasedajuku.com/wasemaga/good-professor/2001/02/post_32.html)参照。
ユーチューブでも講演を聞く事が出来ます(http://www.youtube.com/watch?v=Z9BICzpl9Eo)。
私が見つけたスクラップの記事は、1985年8月12日に起きた日航機墜落事故からほぼ1か月経てのものでしたが、福島原発事故から27年前の記事としても、なお新鮮さを保っています。
この新聞記事では熊本氏は2つの大切な事柄を論じています。
1「物質のエントロピー劣化を重視する事」。ここで物質のエントロピー劣化とは、「物質が不可逆的時間の中で不断に位置を換え変質し、利用可能なものから次第に利用不可能のものになってゆくこと」と、明快に述べています。
日航機墜落では「圧力隔壁」の金属疲労がその破裂を招き、操縦不能となってしまった事が指摘されています。この金属疲労は、摩擦による摩耗、温度の変化や気化によるひび割れや分裂といった、まぎれもないエントロピー劣化の現象です。
福島原発では当時の経済産業省原子力安全・保安院(保安院)が、2011年12月段階で、1号機の原子炉系配管に地震の揺れによって0.3平方センチの亀裂が入った可能性を指摘しています。それは1時間に7トンもの水が漏洩した事を意味します。このひび割れはネットで検索しても、各地の原発で枚挙に暇がないほどです。
ですから熊本氏は物質のエントロピー劣化一般について、従来の学問は全くといってよいほど考慮を払っていないと慨嘆しています。例えば「高速道路、高層ビルをいかに建設配置するかという学問は進んでも、出来上がった構造物の腐朽や崩壊にいかに対処するかという研究は大変遅れている」という事です。そこに重大問題が生じて来ます。コンクリート劣化による崩壊、道路・橋梁の崩壊、都市施設全体の崩壊等々の問題、「原子炉の廃炉問題」など続出です。この最後の廃炉問題を熊本氏は既に27年前に指摘していました。
従って物質崩壊の法則性を理論的に解明することは、焦眉の学問的課題であると、熊本氏はずばり述べています。
2もう一つは多数の人間の生命に直接の脅威を与えるような事象を、「単純な確率統計の問題として取り扱ってはならない事」です。
熊本氏は「航空機や原子力発電所のようにかけがえのない生命に直接の脅威を与えるような巨大技術のもたらす社会事象について確率論だけで論じることは、むなしく、かつ危険でさえあるといえよう」と断言しています。
「航空機事故は数万回の飛行に一度」「原発事故は1千万年に1回」などといった確率論が横行していますが、それは熊本氏に言わせれば、あたかも天災であるかのような誤った印象を抱かせる」という事になります。事実東電では今回の原発事故を「津波」によるものという立場を崩していません。
以上熊本氏のスクラップ記事を要約してみましたが、短いながら大変貴重なものでした。
聖書にも物質崩壊の法則が専門語ではなく語られています。随所に出て来ます。
「またこう言われます。『主よ。あなたは、初めに地の基を据えられました。天も、あなたの御手のわざです。これらのものは滅びます。しかし、あなたはいつまでもながらえられます。すべてのものは着物のように古びます。あなたはこれらを、外套のように巻かれます。これらを、着物のように取り替えられます。しかし、あなたは変わることがなく、あなたの年は尽きることがありません』」(へブル1:10−12)。