ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

槌田敦著『資源物理学』の今日的価値

 「あなたがたがエジプトから出て、その道中で、アマレクがあなたにした事を忘れないこと」(申命25:17)。
 2013年1月図書館で検索したところ、たまたま槌田敦氏の上記の本がある事が分かり、早速借りて読みました。
 槌田氏については過去のブログで数回触れた事があります。1933年生まれ、今年80歳になられた物理学者、環境経済学者です。出身が東京都立大学の理学部化学科で、物理化学のエントロピー理論にめっぽう強く、「槌田エントロピー理論」という独自の考え方を持ち、その観点から環境問題・原発などに古くから取り組んで来ました。この人の事はブログ仲間のiireiさんから教わりました。

 ですからこの本も「熱力学第二法則」としてのエントロピー増大理論を、資源との関わりで、出来るだけ分かりやすく解説しています。原発西側の川内村で被曝したたくきよしみつ氏も、この本を懸命に勉強していたので、事故には適切に対応出来たようです。それもブログに書きました。
 実はこの本の出版は1982年(日本放送協会)で、その時点ではまだチェルノブイリ事故も福島原発事故も生じておらず、米国スリーマイル島(1979年)だけです。ですから内容ではスリーマイル島以外に触れていません。今から30年も前の事です。
 しかし槌田氏は福島原発事故以後各地で活発に反原発の講演を行っています。その基本はこの30年前の著書で既に表されていると思います。福島原発からそれくらい遡ったところで、既に今日の事態を予測していたのです。いわば私たちが全く忘れかけていたこの人が、今不死鳥の如く復活したとでも言えるでしょうか。今でも槌田氏のこの著作、全く新鮮です。
 残念ながらこの本で展開されているエントロピー理論、私にはなかなか理解出来ませんでした。そこで付箋を置いておいた箇所だけ取り上げてみます。槌田語録のような感じになりました。
 「原子力の経済効果というのは、原子力から経済エネルギーをつくることではなくて、電力や原子力産業という産業を振興することだけが目標になっている…エネルギー収支が負であっても、電力会社が儲かる機構になっている、つまり、補助金や電気料金制度に、支えられた虚構」。
 その通りです。それに騙されて電気料金を払い続けた私たちにも、責任の一端があります。
 「原子力発電や再処理工場に、通常ミサイルを打ち込むと、命中した途端に原爆に早変わりする。原子力発電所には広島型原爆1000発程度の放射能が存在する。したがって、これらの施設を攻撃すると脅されたら、もはや戦うことをあきらめ、降伏するより仕方がない」。
 2013年1月24日の朝日に、北朝鮮の長距離弾道ミサイルが米国本土にも達するとありました。55基ある日本の原発、脅されたらもうお手上げです。
 「日数とともに事故を忘れ、また新しい幸福な社会をつくろうと努力する。忘却とは人間のすばらしい能力である。だが、原子力事故はそういうわけにはいかない…被爆者は、一生涯、この被曝を忘却することができない…この恐怖は…根拠のある恐怖である…原子力に未来はない」。
 プルトニウム239をとっても、半減期が2万4千年と言われていますが、それはあくまで半減期の話で、数十万年経過しても残るわけで、子どもや孫以後の世代に恐怖を引き継がせてしまいます。そして原子力発電には試行錯誤が絶対出来ません。それゆえ…
 「原子力技術に対する試行錯誤の禁止は、人間の良識…しかしながら、この良識に欠けた、つまり放射能に対する恐怖心のない人々が、政策決定者になった場合、何が始まるかわからない」。
 安倍首相は明らかにそうした「良識」を欠いた人で、これから何が始まるか分かりません。
 「原子力発電は子孫に対する犯罪である…推奨者は、この犯罪の扇動者である」。
 司法が断罪しないので、原発事故を起こした「罪」を自覚しない、良心の麻痺した推進派の人々は「扇動者」となり、極力反対者を忘却に向かわせようとしています。
 「放射能に対処する方法は、ただひとつ…エントロピーをできるだけ小さい状態にして、事実上の永久管理をすることだけである」。
 なるほど大きくすると体積が増えて管理出来なくなります。
 「残るひとつは、ここで核開発を一切中止する道である。その結果、時々停電があってもしかたがないと思う…これを罪のつぐないのひとつと考えよう」。
 そうです、私たちの世代が原発を止めなければなりません。そうして福島罹災者や子孫に対する「罪の償い」をする事です。ところが教会でも経験する事ですが、今の若い世代は「罪の意識」などほとんど持ち合わせていません。こうなるこれから私たちが30年生きて叫び続けても徒労に終わり、遂に世の終わりが来るという事があり得るかも知れません。