『がれき処理・除染はこれでよいのか』(熊本一規・辻芳徳著)を読んで
「だれが、きよい物を汚れた物から出せましょう。だれひとり、できません」(ヨブ14:4)
図書館で上記の本を借りて読みました。辻氏は清掃事業のベテラン、熊本氏は東大工学部都市工学科を出て大学院で廃棄物やリサイクル関係の問題に取り組み、博士号を持っているやはりベテランの学者です。Iireiさんの先輩に当たる方で、懇意の関係にあります。左写真が熊本氏、右が辻氏。
実はこの本、既に上記iireiさんがブログで書いておられます(http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130613#1371085197)。 私はそこに書かれていない事を主体に学んだ事を記したいと思います。
まず私たち素人が廃棄物処理法を読んで頭に入れる事が難しいのは、それを読んでみてよく分かりました。この法律は東日本大震災のように、津波・震災で大量の災害廃棄物が生じ、且つ福島第一原発の原子炉破壊で生じた広域の放射性廃棄物に関する事が記述されていないからです。法の不備というより、そうした事態は全くの「想定外」だったからでしょう。
いまだ頭の中は整理されていませんが、廃棄物処理法で廃棄物は、放射性廃棄物を除き(別の原子炉関係の法律があります)、産業廃棄物(処理席には排出事業者)と一般廃棄物(処理責任は市町村)に分けられています。
では災害(震災)で生じた大量のがれきはどうかと言いますと、本質的には産業廃棄物でしょうが、放射性物質で汚染されたものも含まれ、どう対処すべきかという事が俎上に載せられました。
そこで国は議員立法で「放射性物質汚染対処特措法」を作り、2012年1月施行しました。ネット情報では、それは福島原発の敷地内の廃棄物や敷地周辺に飛び散った破片等は東電に処理の責任を持たせるとともに、対策地域内廃棄物(30キロ圏内とか計画避難地域等)と下水汚泥等で8000Bq/kgを超えた高濃度汚染物は国に処理責任を課し、それ以外のもので、放射能で汚染されていても、8000Bq/kg以下なら「廃棄物処理法」の除外規定を外し、対象にすると決め、特定一般廃棄物・特定産業廃棄物という名前をつけて一般廃棄物としました。それなら市町村や民間業者に処理責任があるとい事になります。
熊本教授は「原発から排出されるものについては、依然として100ベクレル/kgが基準であるにもかかわらず、震災がれきについては、区別の基準を実に八〇倍にも緩めたのである」と憤っています。ちなみにそれは放射性セシウム濃度の事です。
なぜ8000Bq/kgという数値の設定がされたかと言いますと、処理に伴う周辺住民や作業者の被曝量の上限を1ミリシーベルト/年としたからです。
しかし膨大な震災がれきを抱える市町村では、処理は到底担えないので、別途法律を作り、費用負担を国が行う事にしました。国による代行です。しかも対象市町村は全国まで拡大されました。
実際には国の代行は福島でしか実施されておらず、全国的広域処理は県が代行しています。そして例えば岩手県の場合、地元処理で動いているのが大手ゼネコンです。これは災害廃棄物が一般廃棄物とされたおかげで、可能になりました。
でも市町村レベルなら仙台市だけがれき処理がスムーズに進み、地元処理業者で賄っています。
かくてそこを除くほとんどの所で、「がれき利権」「除染利権」「帰還推進」という構図が生まれ、現在に至っています。そのあたりはiireiさんがうまく纏めておられるので、そのブログを参照して下さい。
放射能汚染された震災がれきは、東京電力の費用負担で、福島第一原発周辺に集中させて隔離すべき事が、国の方針でトンデモない方向に行ってしまった事を再度学びました。難しかったけれど良い本でした。