ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

ルポ難民追跡 バルカンルートを行く(坂口裕彦著)を読んで

 「【主】は彼らを助け、彼らを解き放たれる。主は、悪者どもから彼らを解き放ち、彼らを救われる。彼らが主に身を避けるからだ」(詩37:40)
 図書館から上記の本を借りて読みました。これはシリア、アフガンなどの難民たちの動向を巨視的に捉えたものではなく、坂口氏(毎日新聞)が、ギリシャのレスボス島で出会ったアリ・バクリさんとその妻、娘に密着取材し、アフガンから難民としてイランを経て、ドイツに身を避けるまで同行したルポです。
 題にバルカンルートとあるので、まずそれを調べてみました。

 図の赤線がそのルートです。「シリアやイラクに隣接するトルコの西海岸から 、ギリシャに 渡りバルカン半島を北上しマケドニアセルビアを経由してハンガリーへと進み、さらドイツ等EU諸国へと移動するシリア・イラク等の難民のルートのこと」とネットにありました。
 このルートは昨年末ハンガリーが越境防止フェンスを張って、難民受け入れを拒絶したので、南のクロアチア方面からの迂回を余儀なくされており、定義通りにはなっていません。
 密着と書きましたが、実際にはアリさん一家は何度か行方不明になっています。しかしそういう時に威力を発揮するのが、携帯電話とメールです。もしそれが入手出来なかったら、再会は不可能だったでしょう。ちなみにこの本に載っている資料によると、シリア難民は490万、アフガン難民は270万人とありました。内戦を避けて避難する人々が、続々と列車に乗って行きます。すし詰めの列車を撮った写真が何枚かありますが、すごい光景でした。一時収容施設も雑魚寝状態でプライバシーは保てません。すぐアウシュビッツを連想させましたが、坂口氏もこの本で触れています。それでもアリさんの娘フェレシュテちゃんの笑顔が素敵で、困難な逃避行の中にあってほっとさせるものがありました。
 「二〇一五年は、アリさんをはじめとする欧州に渡った難民や移民が一〇〇万人を超え、国際社会の注目を集めた」とありました。nankaiさんがその事に触れています。「昨年から,西洋世界では難民問題が表に現れた.これは,八百年におよぶ西洋の非西洋に対する収奪の結果として社会的な基盤が崩れた地域からの,生きるための大移動であった.かつてのゲルマン民族大移動は,紆余曲折いろいろあったが,最終的にはローマ帝国を解体した.これと同様,難民問題は今日の西洋世界を大きく揺り動かしている」(http://d.hatena.ne.jp/nankai/20161110)。この100万という数字は、さいたま市広島市に匹敵するものです。人口8177万人のドイツをとってみると、坂口氏によれば「とりわけ寛容に受け入れてきたドイツの難民政策は、二〇一五年に流入した難民や移民が約一〇九万人に達し、がけっぷちだ」との事でした。
 アフガン難民で無事ドイツにたどり着いた人々は、ほとんど無一文です。そこでドイツは難民認定審査が決着するまで生活費を負担しています。アパートの家賃や電気代まで負担し、3人家族のアリさんの場合、支給額は10万4千円になるそうです。そこで坂口氏は「一家の生活費をしばらく負担するのはドイツ人だと思うと、どうも割り切れない」と一言。せめて受け入れ側も大変との思いを共有するべきではないかと述べています。
 このイスラム教徒の『大移動』は、力では阻止できない」。しかし内には移民排斥論や極右政党の躍進があるので、まさに内憂外患です。そうであるなら、坂口氏がどう考えようと、先に見えて来るのはドイツを始めとする西洋世界の没落という事でしょうか。nankaiさんの指摘は正鵠を射ているように見えます。
 翻って日本の原発難民の場合でも「賠償金」を巡り、受け入れ自治体・住民との間で、目に見えない軋轢が生じています。本当に不幸な状況で胸が痛みます。原発難民もアリさん一家と同じように、3・11当時無一文の状態で強制避難させられたのですから。