ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

内田樹の農業論と福島

「私が昼も夜も眠らずに知恵を知り、地上で行われる人の営みを見ようと心に決めたとき、すべては神のみわざであることが分かった。人は日の下で行われるみわざを見極めることはできない。人は労苦して探し求めても、見出すことはない。知恵のある者が知っていると思っても、見極めることはできない」(伝道8:16-17)。

福島第一原発事故からもうすぐ10年になろうとしている。沿岸部の農業が10年以上前どうであったか僕は知らない。

福島県に引っ越して来てから、勿来~相馬市までの耕作地はかなり見て来たが、どれほど復興したのかは分からない。

2月1日の毎日新聞は各地の状況を取材しながら、福島がいまだ「復興途上」にあり、再生の兆しを見せているのか、と疑問を投げかけている。

その記事の中で目立つのが、沿岸部への県外企業の進出である。

最初に出て来たのは、楢葉町前原地区の白ハト食品工業大阪府守口市)だ。楢葉の中央付近を東西に悠然と流れる木戸川の河口付近の南にある。2018年1月にしろはとファームの支店として開設され、サツマイモの栽培を開始した。昨年10月に日本最大規模と言われるサツマイモ貯蔵庫が完成している。

楢葉町が誘致したが、理由の一つは、天候不順による不作の懸念から、大規模・安定生産が出来る企業を求めたからである。町長は立派な貯蔵庫を造ったのだから、見合う形に持っていかねばならないと強調したそうだ。

次は浪江町棚塩地区の舞台ファームである。浪江町国道6号から見て海側は、経済産業省主導のイノベーション・コースト構想により、北部の棚塩地区に大規模な産業団地が出来た。その中に福島水素エネルギー研究フィールドとかロボットテストフィールドが既に存在している。

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 南部には、隣接する双葉町に跨る国と福島県主導の福島県復興祈念公園が整備されつつある。津波時に生徒を全員無事避難させた請戸小もその一角にある。請戸小からその写真を撮ろうとしても、至る所2メートルを超える柵に邪魔され、全く様子が分からない。

一方仙台を拠点とする農業生産法人舞台ファーム株式会社は、その沿岸部に割り込み、米や野菜の生産、カット野菜などを手掛けている。ドローンによる施肥、ロボットトラクターによる収穫など、最新技術を採択して、さらなる生産に挑戦している。

西の沿岸部を経産省や県外の企業に占められた地元の小規模農家は、東部で農業を営もうにも、放射能がいまだ高く帰還困難な地域に行く手を遮られている。どう対処すべきだろうか。

最近図書館から内田樹著『日本習合論』という本を借りて読んだ。内田氏はいつも本質的で鋭い指摘をしてくれる。

彼によれば、「農地での耕作が成り立つためには、山や森や川や海がきちんと管理されていなければならない‥」「営利企業が農業に参入してきた場合は、彼らが自然環境を保護し、自然の再生産力を持続させるためのコストを負担するでしょうか?僕は絶対にしないと思います」。そして儲からない事が分かった企業は、その事業から「あっさり撤退する」「あとはもう農業ができないまでに荒廃した自然環境と、耕すべき自分の土地も、伝統的な農業技術も失った人々が残される」。

それは浪江の農業法人だけでなく、イノベーション・コーストに誘われて進出した技術系企業にも言えるだろう。写真上の世界最大級水素製造工場は、地元福島とはほとんど接点がない。5年間見て来たが、この棚塩地区の高台は、企業が豊かな森を破壊し、巨大なハコモノを作った。果たしてどこまで続くだろう。