ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

古川日出男著『ゼロエフ』から考えた事

「あなたは七年の終わりごとに、負債の免除をしなければならない」(申命15:1)。

古代イスラエルにおいては、「シェミッター」と呼ばれる負債免除の年が七年毎にあった。貸主はみな、その隣人に貸したものを免除する事になっており、主なる神がそれを布告された。
では原発事故を起こした東電はどうか。放射能をまき散らすという前代未聞の負債を負った東電は、その廃炉を完全に終え、賠償を完全に済ませるまでは責任免除とはならない。それには七年を七倍しても終息とならない。七×七×二でも九十八年、まだ負債はゼロにならないだろう。

古川日出男氏は郡山市出身の作家である。そこは中通り原発放射能の影響は受けても、実際の津波放射能による帰還困難という実態をつぶさに見る事はない。

古川氏は1966年に生まれ、18歳で大学の学びをする為上京し、おそらくそのまま東京に留まったのだろう。だから2011年の東日本大震災を僅かに垣間見ただけと思われる。

それから10年が過ぎたが、東京五輪はと言えば、元々の開催年は2020年だった。古川氏は「復興五輪」と名付けられたその五輪の年に、福島の復興が果たしてどの位進んだのか後退したのか、実際見てみようと思った。その昔小田実が『何でも見てやろう』を書いて、米国放浪の無銭旅行に出たのと同じような出で立ちで、夏の暑い最中徒歩で実行したのである。それは中通りの国道4号を北上し、次に浜通りの国道6号を南下し、福島県で言うなら新地町からいわき市勿来町に至るまで全280キロの旅だった。後に4号と6号の交わる宮城県も旅して総計360キロにもなった。それが『ゼロエフ』という本に結実した。

福島で生まれ育ち、中通りを主体にその像が育まれて来たのを一度リセットし、虚心に大震災後の福島像を再構築しようとする試み、ゼロからの再出発の試みが、題として採用された「ゼロエフ」の象徴的な意味だ、と或る人は書いた。つまり福島第一原発(ⅠF=イチエフ)、第二原発(ⅡF=ニエフ)の終焉を踏まえ、Fukushimaからのゼロスタートという事だ。

しかし具体的な意味は本文に載っている。先に大熊町双葉町に跨る福島第一原発(=イチエフ)、そして楢葉町富岡町に跨る福島第二原発(=ニエフ)が東京電力によって造られた。そして次は浪江町南相馬市小高区に跨る福島第三原発が、東北電力によって造られる予定だった。しかしそれは第一原発の過酷な事故に鑑み、計画が断念された。通称「浪江・小高原発は幻に終わり、ⅢF=サンエフは存在しないという意味でゼロエフになった。東北電力はその所有する土地を無償で譲渡した。放置しておけば負の資産となるのを譲ったのだから、反対運動をしていた人々とも折り合いがついた。

しかしそれは手放しでは喜べない。東北電力女川原発東通原発を所有しているからだ。過酷事故を起こした東電の原発廃炉過程とは比較出来ないにしても、それが役目を終えた後、負債にはならないという保証はない。

古川氏はこの幻のサンエフの所在地に行く。そこは浪江町棚塩地区にあり、現在福島水素エネルギー研究フィールドという世界最大級の水素製造拠点が、本来の原発の広さを縮小した形で立っている。それでも広い。工事中は隔ての柵で全く中が見えなかったが、いざ全貌を現わすと、世界最大級という位の大きな施設となった。これは以前のブログで触れたが、再度写真を載せる。海のある東側から撮影した。

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 そして土地は広いから写真の奥の建物の先に「復興牧場」というのも整備されるそうだ。

だがこれらは全ていわゆるイノベーションコースト構想の一部だ。3月7日の毎日新聞を見ると、ここ浪江での「国と県肝いりの事業」に対しては町民は冷ややか、「町民が求める復興と町や県、国が描くものは決定的にずれている」。その通りだと思う。常磐線浪江駅を降りて、かつての中央商店街を一瞥すれば明らかである。更地ばかりで今もひとけはない。人が戻らない。

ならば「陸の孤島」であるこの福島水素エネルギー研究フィールドだって、いつまでもつのか分からない。古川氏はサンエフが潰え去った後の敷地に立つこのフィールドは、距離的に見ればサンエフに対してゼロエフであると言う。それはそうだ。しかし僕は別の見方をする。地域に大事にされないこの福島水素エネルギー研究フィールドは、将来的には沈没する。福島県人に何の益ももたらさない。その意味でのゼロエフになる、と思う。

古川氏が訪れた新地町から勿来町までのところどころの記事は、僕もだいたい行ったので良く分かる。ただ4号北上、6号南下の本の記事は、理路整然とはしていない。そこが面白いのだろうが、時間が無くて、思考力も落ちた僕は、纏めながらブログに書く事は難航した。でも福島の現状が分かるから一読をお勧めする。