ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

スーザン・ソンタグ著『エイズとその隠喩』を読む

 エイズとは、後天性免疫不全症候群という長い名の感染病の事で、英語の頭文字をとってAIDSと略称されているもののカタカナ語です。
 それはヒト免疫不全ウイルス(HIV)が、免疫機能を有するリンパ球の一種であるT細胞に感染し、それを破壊してしまう事によって引き起こされます。
 ネットのサイト(http://www.thebody.com/content/art6627.html)から画像を借用し、一部改作させて頂きました。HIVウイルスは1と2の2つのタイプがあります。そしてT細胞のうちヘルパーT細胞というものが、細胞性免疫の「重要な司令塔の役割」を果たしており、その細胞膜の表面にCD4という抗原が存在します。HIVウイルスはこのCD4という膜抗原と相性がよく、それに接着して感染して行きます。

 そして破壊された累々たるT細胞の死骸で免疫機能が極端に低下し、10年ほど経過すると不全状態になってしまいます。すると健康な人の肺に普通に存在するカリニ原虫(カビの一種)は敵であるT細胞が不在なので、我が物顔にのさばり、カリニ肺炎という病気を起こします。エイズの歴史の初期では、これが原因で死亡する人が多かったようです。今はだいぶ医療が進んで改善されているようです。他にもカポジ肉腫といって、免疫不全状態では身体のどこにでも出来る腫瘍もこのエイズの特徴で、やはりその歴史の初期での死亡例が多かったようです。勿論他にもいろいろな症状が出ます。(素人いじりも良いとこですね!苦笑いしている方々も多いでしょう)。
 ところでスーザン・ソンタグ(がんで71歳にて亡くなったのは残念!)は、この本でも隠喩としてのエイズを取り上げて論じています。残念ながら富山太佳夫氏の訳は決して読みやすくありません。特にこの病でかぎとなるスティグマ(=汚名とか恥辱の意味)という言葉を知っている一般の人々はどれ位いるでしょうか。知らない人は肝心なこの部分で分からないまま飛ばして読むしかありません。ソンタグ氏が高学歴でありながら、庶民の目線で評論活動を行なっていた事を考える時、酷な言い方をしますが、この訳本は失敗作です。
 それはとにかく、エイズの歴史は古いのでしょうが、それがにわかに話題となったのは、米国における同性愛者間での感染と死亡例の増加によるものです。
 確かに同性愛は聖書ではパウロなどが厳しく糾弾しており(「男も、女の自然な用を捨てて男どうしで情欲に燃え、男が男と恥ずべきことを行なうようになり、こうしてその誤りに対する当然の報いを自分の身に受けているのです」{ローマ1:27})、アメリカでエイズが蔓延するようになったのは、性道徳の乱れだと説教する牧師も結構いたでしょう(ジェリー・ファウエルという有名な説教者の名もこの本に出て来ます)。それはカミュの『ペスト』における神父の説教を思い出させます。
 ところが米国での非難とは別に、日本におけるエイズの歴史では、血液凝固因子の欠損で生じる血友病患者が使用していた非加熱製剤の中にHIVが混入していた為、発症して亡くなった方が多かったので、そちらで大きな問題となったのでした。いわゆる薬害エイズ事件で、死亡者数は400人を優に越えると言われています。これはまさに血友病を抱えている人々には甚大な被害となりました。
 そうした人々に対してこれは神からの「神罰」だなどと言えるでしょうか。出血しないよう気遣っている人々にAIDSが存在するという事は、二重の苦難となります。
 確かに同性愛の問題から発した事かもしれませんが、今はそんな単純な問題ではなく、例えばVOAの健康に関わるサイトを見ても、世界中の医者や研究者たちが真剣にこの問題に取り組んでいる事が分かります。訳者あとがきにあるように、ソンタグは「非合理な思想や差別のイデオロギーを可能なかぎり解体してゆこうとする」意図で、この本を書いたのでしょう。短い書物ですが、旧約のツァラアト(英国欽定訳では「らい病」と訳しています)の意義を考える上でも一読に値すると言えるでしょう。