ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

吉岡斉氏の考える脱原発の困難さ

 吉岡斉氏は九州大学の副学長で、政府事故調査委員会委員でした。この委員長が畑村洋太郎氏で、失敗学の権威です。氏を通して私はハインリッヒの法則というものを知りました。それは「1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというもの」です。
 他によく知られている委員は、柳田邦男氏くらいでしょうか。
 そしてこの調査委員会は今年の7月23日に最終報告を出して、一つの区切りをつけました。
 その結果の不十分さについて畑村委員長は、2点挙げています。1つは「放射線が強すぎて実物に近づけないということ」、2つ目は「時間的にも陣容的にも再現実験が出来なかったこと」です。これは科学的検証の場合、致命的な欠陥になるかも知れません。
 その最終報告を受けて、7月23日のグリーンピース・ジャパンhttp://www.greenpeace.org/japan/ja/news/press/2012412/pr20120723/)では、「政府の事故調査委員会の最終報告は、国会事故調の報告より後退している」と批判していました。後者が事故を地震による対応不備で生じた人災によるとしているのに対して、前者は直接的原因を津波のせいにしているからです。
 その批判から約一ヶ月前の6月26日に岩波書店から出されたのが、吉岡斉氏の『脱原子力国家への道』です。氏は東大理学部物理学科の出身ですから、畑村氏同様、この調査報告の限界は知悉していると思います。ただエピローグで「筆者は脱原発論者ではないが、原子力発電の弱点と生存能力に対する評価においては、実質的に脱原発論者に近い」と言っています。

 この本の書評がsatosukeさんのブログ(http://d.hatena.ne.jp/satosuke-428125/20120719/1342707820)でされていました。サトスケさんはこの本の主要な構成について、的確な紹介をしておられます。
 そこで私の書評としては「本書には、脱原発は可能であると同時に難しいとも論じている」という箇所を敷衍してみただけです。政府事故調査委員として多くの人々からの聴き取りに同行した氏の、或る意味恐ろしい感想となっています。
 氏は原子力共同体の主要メンバーについて、3年前の認識から少し発展させ、氏自身の造語である「核の六面体構造(*乃至は八面体構造)」という言葉を掲げました。それは1経済産業省、2電力業界、3地方自治体関係者、4原子力産業(メーカー)、5政治家集団、6アメリカ政府関係者です。それに7(御用)学者、8(彼らに組する)マスメディアも加えてよいという事です。
 そして脱原発の前に立ちはだかる最強の砦は、この六面体構造の一角を占めるアメリカ政府かも知れないと言っています。なぜなら米国は現在日本メーカーの製造能力に、深く依存しているからです。今後「アメリカからの強力な、脱原発路線への政策転換を阻止しようとする政治的介入が展開される可能性がある」、と氏は言っています。
 この経済産業省を主体とする六面体構造の会議に出た吉岡氏は、その異様な雰囲気に戸惑います。このエネルギー一家の家族会議では、通常とは異なり「下座」に座長と役人が、「上座」に委員が配置され、意見のやり取りは実質権限を有する下座と上座の委員との間で行われます。しかしこの部外者の委員が異論を差し挟む余地はないと氏は指摘しています。政府調査委員会の半端な報告は、以上のような初めに結論ありきの中での形式的なものに過ぎないので、当然と言えば当然でしょう。
 でも3・11以後出て来た脱原発の大きなうねりは、さすがに経済産業省内閣府原子力安全委員会も左団扇ではいられず、大飯原発3,4号機再稼動に向けて「不撓不屈の強硬姿勢」をとったそうです。
 経済産業省原子力保安院も、全原発の速やかな再稼動が目標ですから、「批判的な国民世論・住民世論に対して、一歩たりとも譲歩しないという姿勢」なのだそうです。この秋に廃止される事になっていますが。
 当時の政府としても枝野幸男細野豪志海江田万里の3氏は、原発の安全が確認されている主旨の事を既に述べていました。こうした大嘘つきの大臣を放置しておいて良いでしょうか?
 サトスケさんの書評から少し発展させて私の感想を書かせて頂きましたが、正直言って、非常に怖い、恐ろしい実態を垣間見たといったところです。
 この原始村を構成する六面体(乃至八面体)の強固な構造の前に、微々たる力しか持ち得ない私は、人間的には絶望しました。しかしです。
 「律法学者たちには気をつけなさい。彼らは、長い衣をまとって歩き回ったり、広場であいさつされたりすることが好きで、また会堂の上席や宴会の上座が好きです」(ルカ20:46)。
下座の立場にない役人らは、しかし慇懃無礼にもそこにあって、上座の委員の異論を一切受け付けません。この偽善者らに対し、イエス・キリストは「人一倍きびしい罰を受けるのです」(同20:47)と言われました。ですから私もこれからは次の聖句で地道に原発廃止への戦いをしてゆきたいと思います。
 「人を恐れるとわなにかかる。しかし主に信頼する者は守られる(箴言29:25)。