ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

布施祐仁著『ルポ イチエフ』を読んで

 「彼らは善にかえて悪を報い、私のたましいは見捨てられる」(詩35:12)。
 
 図書館で上記の本を借りて読みました。副題は「福島第一原発レベル7の現場」です。
 まず本の折り返しの印刷部分にこうあります。「高濃度の汚染のなかで、事故の真の収束を目指し、日夜、作業員が働いている。被曝は避けられず、過酷な現場では労災も続発する。だが、それでもなお、劣悪な労働環境は改善されない。横行する違法派遣・請負、労災隠し…。危険手当さえ、ピンハネされる。それでもなぜ、彼らは働くのか」とあって、布施氏は作業員の肉声を出来るだけ伝えようとしています。私たちはこの作業員の犠牲により、一見安泰に見えますが、彼ら使い捨てられている作業員の事を知らないままでよいのでしょうか?
 画像はhttp://kaleido11.blog111.fc2.com/blog-entry-922.htmlより。
 今3・11から1年9か月以上経過し、既に東京圏の人々の間では(特に若い人たち)、あのレベル7の大事故が風化しつつあります。しかし…
 「あの原発は東京にほとんど電力を送ってるんだ!それなのに何故もっと節電してくれない?!津波の被害も地震の被害も受けて、次に放射能なんてふざけるな!」(南相馬のある女子高生のツイッターより)。
 頭を棒でぶん殴られた著者は、事故以来50人以上の作業員に取材して、それを記録に残しました。貴重なルポです。
 3・11の時福島原発には東電社員755人、下請け労働者5660人が勤務しており、地震津波でパニックに陥りました。その後の彼らは原発1〜4号機の炉心溶融や水素爆発、燃料プールの汚染水の流出で、大量の被爆をする事になりました。*以下私たち一般の人間の年間許容シーベルト数値を1ミリシーベルトとして比較して行きます。逆算するとおよそ毎時0.12マイクロシーベルト位です。ちなみに私の住む松戸で、3月21日だいたい毎時0.34マイクロシーベルトですから、年間約3ミリシーベルトです。
 まず1号機や3号機の水素爆発後、東電社員の瀬谷幸一郎氏は、3月16日に毎時100ミリシーベルト被ばくしました。地元の作業員坂本勝氏(20代)は毎時2ミリシーベルト、4時間作業しています。3月24日3号機建屋地下汚染水で被ばくした3人の作業員は毎時180ミリシーベルトほどになりました。村上勝男氏・田川耕介氏(20代)は汚染水除去の為のホース作業その他で1週間10ミリシーベルト被ばくしました。布施氏は他にも多くの方々にインタヴューしました。載せるスペースがありません。
 そして第五章「犠牲と被爆」で、東電発表の2012年3月末までの作業員累積線量(=外部・内部被爆の合計値)を引用しています。それによりますと、事故直後は東電社員が毎時25ミリシーベルト、作業員10ミリシーベルトでしたが、4月以降になると、作業員の被爆が圧倒的に多くなり、50ミリシーベルトを越えた作業員は968人になります。結局今回の事故に対する緊急の作業で、20ミリシーベルトを越えた作業員は3957人に上りました。東電社員なら手厚い補償が出ていると推測しますが、下請け作業員の場合、完全に見捨てられています。解雇されると次の仕事がないという理由で、彼らは命の危険を冒して再び作業に当っているのです。被爆により将来ガンで死ぬかも知れないけれど、怖くても辞められません。しかし自分たち以外に収拾出来る者は誰もいないという矜持も少しはあります。下請け会社はすぐ見捨て、またすぐ作業員を補充しています。布施氏はルポでこの「見捨て」「使い捨て」という言葉を数え切れないほど聞きました。
 その構造は第四章に出て来ますが、下請け構造は何と第7次にまでわたっています。いやそれ以上かもしれません。

 東電は1次下請け会社と直接契約を結んでいる為、二次以後の下請け会社の不当な作業員に対する日当や危険手当ののピンハネ等は、ただ「指導」するだけで、全ては下請け会社任せなのです。図から4次以降の下請け会社は、東電マニュアルの存在にも関わらず、最もひどい環境で実地教育も受けられずに作業させられ被爆し、二重三重のピンハネをされています。危険手当に至っては、「人夫出し」で駆り出された人々は、暴力団の絡みもあってもう諦めている状況です。この重層下請け構造は、勿論原発事故以前から続き、暴力団の関与なしには成立しません。かつて東電は一流企業だったのでしょうが、この隠された事実が発覚すると、もはや最低レベルの悪辣な企業でしかありません。事故が起きるとこれまでの偽善的な企業方針から、一転して「悪を報い」るようになりました。原発事故以前敦賀浜岡原発で働き、その後東電で作業に従事した斉藤征二氏は、ピンハネされた挙句の解雇後数年して多発性骨髄腫となり、裁判に訴え労災認定されたものの、因果関係を否定し賠償を拒否する東電との争い中に、無念にも死亡し、その後最高裁で長尾氏の敗訴が確定しました。この図式これからの裁判でも定着してしまいそうです。
 私はこの箇所を読んで怒りで一杯ですが、聖書の作者に倣い「神がおまえを幾重にも罰せられるように」(サムエル第一3:17)と叫ぶほかありません。伝えるべき事が多くありましたが、うまく纏まらず済みません。