ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

塩と遺伝的要因の相互作用を示す繋がり

 「塩は、ききめのあるものです。しかし、もし塩に塩けがなくなったら、何によって塩けを取り戻せましょう」(マルコ9:50)。
 2013年3月6日のサイエンスデイリサイトでは、「免疫の関与する細胞の回路網、自己免疫疾患の露呈」といった題で、論文が紹介されていました。
 研究したのはハーヴァード大学マサチューセッツ工科大学イエール大学そして研究所や病院からなるチームです。
 研究者たちが注目していたのは、Th17細胞と名付けられたものです。ウイキペディアによりますと、それは「白血球の一種であるヘルパーT細胞(*略してTh細胞)のサブセットの一つであり、近年新たに発見されたもの」とあります。2005年に発見され、それが自己免疫疾患と密接な関係がある事は分かっていました。

 画像は北大研究室のサイトからお借りしました。Th1、Th2といったサブセットと共に、画像中央にTh17と、それが引き起こす自己免疫疾患が赤色で記されています。
 免疫系は非常に複雑でその全容を頭に入れるのは難しいです。高校の教科書には「もともと自分のからだにあるもの(自己)とそうでないもの(非自己)がある。非自己のもののうち、生物が自分のからだにとって異物と認識したものを抗原と呼んでいる」とあります。ところがこの異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織(=自己)に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を来す疾患が、題にある「自己免疫疾患」となります。研究者たちは「人間の免疫系はデリケートな均衡の状態にあり、あまり活動しなければ外部からの侵入者に攻撃されやすく、活発過ぎると本来守るべきからだを傷つけてしまう」と言っています。「このデリケートなバランスが崩れると、自己免疫疾患をもたらす」事になります。多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、強直性関節炎などの難病があります。
 骨髄で産生されたT細胞は成熟したあと、リンパ節などに移り抗原の刺激を受けますが、まだそれを受けていないものをTh0と呼び、刺激を受けて活性化するとTh1,Th2と分化し、新たにTh17も加わりました。このTh0からTH17までは時間と共に変化・発展してゆくので、それに関わる遺伝子を特定するのは、これまでかなり困難でした。研究者たちは3日間にわたり18回以上スナップ写真を撮り、コンピューターのアルゴリズム(=問題を解くための手順を定式化した形で表現したもの)を用いて、細胞が成熟してゆく回路網を纏めてみました。今度はそれから一つ一つの遺伝子を沈黙させる事で、回路網の最も大切な点を示す事が出来るようになります。
 しかしその為に細胞を混乱させる事なく遺伝子を沈黙させる技術が必要です。これまでRNA干渉法(任意の遺伝子の発現を抑制する手法)が用いられていました。でもこのT細胞は刻一刻変化して行きますので、それが使えず新しい手法が必要となりました。
 そこが課題でしたが、研究者たちはそれをコンピューターチップのような構造物を用いて克服しました。シリコンのナノワイアを作り、細胞に刺すやり方です。
 それによって或る一つの遺伝子が頭角を現しました。それがSGK1と呼ばれる既知の遺伝子でした。それは腸、腎臓に存在し、塩の吸収で役割を果たしています。そこで研究者たちは塩と自己免疫疾患との関連性を検証してみました。マウスを用いて実験すると、高濃度の塩でSGK1発現が促進され、Th17細胞の分化が促進され、自己免疫疾患発症に繋がりました。逆にSGK1遺伝子が止まると、Th17細胞は産生されませんでした。
 結論としてSGK1遺伝子は病原性Th17細胞を誘導するのに重要な役割を果たし、塩をたくさん摂取すると(それだけが要因ではありませんが)Th17細胞を発達させ、自己免疫疾患を促進するという仕組みが解明されました。
 勿論研究者たちは、それで自己免疫疾患が生じるから、塩を摂取してはいけないという事を言うには時期尚早だと諌めています。さらなる研究が必要だという事でしょう。でも塩の働きの一つが推測された事だけでも、面白い研究だと思いました。