ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

「脱成長論」

 「貧しい者が国のうちから絶えることはないであろうから、私はあなたに命じて言う。『国のうちにいるあなたの兄弟の悩んでいる者と貧しい者に、必ずあなたの手を開かなければならない』」(申命15:11)
 2013年6月4日の朝日文芸批評欄には、「幸せのカギ脱成長にあり」という題で、フランスの経済哲学者セルジュ・ラトゥーシュ氏がインタビューを受けていました。この人の名前は初めて聞きました。

 早速ネットで調べてみましたが、意外と情報が少なかったです。というより講演や執筆したものが、ほとんど自国語フランス語という事が挙げられるのではないかと思います。
 ラトゥーシュ氏は1940年にフランスのバンヌで生まれ、パリ南大学(パリ第11大学ソー・オルセー)の名誉教授です。政治学・哲学・経済学を学び、南北問題特に経済・文化関係の専門家です。
 氏はこれまで多くの論文や著書を出していると思いますが、その代表作は『<脱成長>は、世界を変えられるか?』です。この脱成長=仏語デクロワサンスが世界の注目するところとなり、邦訳もこの5月に出版されました。
 それは朝日記者の説明によると、「経済の規模を徐々に小さくすることで消費を抑制。本当に必要なものだけを消費することで、真の幸せにつなげていこうという考え」です。
 もし経済成長至上主義の社会のままでやってゆこうとすると、結果として大多数の人々を決して豊かにせず、貧困や飢餓を生み出し、それが深刻化して人が生きていくのに厳しい社会になるだけなのです。それを氏は豊富なアフリカでの現地調査で、しっかり把握しました。飢饉による食料不足が貧困問題の本質ではなく、商品作物生産の偏った開発があった為、生活基盤が破棄され、共同体内部の分かち合いの精神が失われた事が主因だ、と氏は主張しています。
 よく考えて見ますと、それは明白な事でしょう。長期的に見れば、地球の資源は有限であり、開発で次第に枯渇してしまうのは目に見えています。またそうした開発により、周囲の環境も破壊され、ますます人々の生活が苦しくなるでしょう。「持続的に可能な成長」という表現自体が矛盾しています。
 今安倍首相はアベノミクスと呼ばれる「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で、長期のデフレを脱却し、名目経済成長率3パーセントを目指しています。しかしそれが富裕層からのトリクルダウンをもたらす事はなく、一部企業を除き給与がアップする事もなく、経済格差はますます広がりつつあります。 
 ラトゥーシュ氏は脱成長の為に8つのRというものを掲げています。1再評価する(re-evaluer)、2概念を再構築する(reconceptualiser)、3社会構造を組み立て直す(restructurer)、4再配分を行う(redistribuer)、5再ローカリゼーションを行う(relocaliser)、6削減する(reduire)、7再利用する(re-utiliser)、8リサイクルを行う(recycler)です。括弧内は原文のフランス語です。
 具体的には「過剰広告に振り回されないようにしよう」「要らないものを売らない買わない」「遠くに旅行するのはやめよう(ツーリズム批判)」「近くで採れたものを食べなさい(産直運動)」「小さな集団にまとまってそのなかで完結して暮らしなさい(再ローカリゼーション)」「簡素な生活をしよう(エコロジカルフットプリント=生態学的足跡の削減)」などが挙げられます(ネットでの大場裕一氏による表現)。
 朝日記者の質問に対しては、「まずは、洗浄便座付きのトイレを使うのをやめなさい。あの水を出すための電気だけでも日本全体なら相当なものです」と言っていました。
 今回の来日の目的は、日本人の社会と経済に関わる新たな戦略転換を求めて対話するシンポジウムを開く事で、5月中に同志社大学で集中的に実施されました。斬新なアイデアが多く出された事でしょう。是非氏の本を読んでみようと思いました。