ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

『新自由主義の帰結』(服部茂幸著)を読んで

 「兄弟たち。あなたがたは、自由を与えられるために召されたのです。ただ、その自由を肉の働く機会としないで、愛をもって互いに仕えなさい」(ガラテヤ5:13)。 
 図書館で上記の岩波新書を借りて読みました。普段使い慣れた言葉ですが、再度その定義から学び直したかったので。
 服部氏によると、新自由主義の起源はごく最近ではなく、オーストリアのフリードリヒ・ハイエク(1899〜1992年)が『隷属への道』という本を書いた1944年頃に遡り得るそうですが、その本格的な台頭は1970年頃、米国のミルトン・フリードマン(1912〜2006年)が母校シカゴ大学の教授になり、ハイエクシカゴ大学に移って来てから、活発になります。この二人の思想は少し異なりますが、それでも新自由主義の旗手です。
 その経済理論を基に、1980年代には英国のサッチャー首相が政策に採択し、米国のレーガン、日本の中曽根首相らが続きました。チリのピノチェト政権に至っては、フリードマン自身と部下のシカゴ学派と言われる若い経済学者たちが直接乗り出し、軍政の下新自由主義的改革が次々と行われた事は、ナオミ・クラインのショックドクトリンにも詳しく書かれています。
 ○服部氏によると、新自由主義は戦後資本主義政策を批判し、その代替案を出したものです。それは1市場メカニズムが機能すれば、失業は自ずと解決。経済の活動水準は供給サイドで決まるので、その改善政策とは規制緩和、減税となる。2金融市場を自由化する。3富の再分配ではなく、その創出に力を尽す。能力ある人がそうすれば、最終的に貧しい人々もそれを享受出来る(トリクルダウン)。4福祉国家による経済活動の介入は、個人の自由を侵害し、隷従への道を歩む事になる。
 ○次に戦後資本主義は利潤追求の方法が変わりました。1980年以降、「資本主義は機関投資家資本主義へと変貌する」。コトバンクによる機関投資家の定義は「個人投資家以外の証券投資を行っている団体。具体的には、生命保険や年金、投資信託など、他人から委託された資金を運用している企業を指す。個人投資家よりも資金量や情報量、手法などの点で大きな力を持ち、証券以外にも債券や外国為替などにも投資する…」とあります。彼らは株式を買い占め、企業を支配するようになりました。機関投資家のシェアは現在「半分近くを占める」そうです。新自由主義がこの機関投資家資本主義を支えています。なぜなら1経営者は労働者をリストラし、賃金を抑える事によって利潤を拡大し、株価を上昇させ、経営者は対価として法外な報酬を得る。2機関投資家資本主義は投機の上に成立する。3金持ち減税やストック・オプション(予め決められた価格で自社株を買う権利)などの政策で、金持ちへの富と所得の集中、CEOの報酬が高騰する。
 ○「機関投資家資本主義の時代の金融ルールは利益をあげることが第一」。その為金融は投機や詐欺まがいの行為で利益を得られるようになり、それがカジノ場に変貌した(現代資本主義は変動為替相場制へ移行して以来、外国為替や資本収支などの国際金融や国内外での金融取引において、あたかも巨大なカジノの賭博場への参加者のごとくマネーゲームを興じている様子を表現したもの)との事です。
 ○カジノ資本主義を支えるのも新自由主義経済学。FRB(米国の中央銀行にあたる連邦準備制度の中枢機関)は金融市場の自由化を推進。規制は有害無益。一度金融危機に陥れば、政府が市場に介入するようになった。投機の失敗による金融危機には1証券市場暴落型、2不良債権型の2タイプがあるが、いずれも金融当局の介入で救済がされた。2007年のサブプライム・ローン(危険な借り手に対する貸出)金融危機は、反社会的な投機が契機で、ウオール街の金融機関が壊滅したにもかかわらず、政府の救済で経営改革は行われず、しかも政府の公的資金は、経営者の莫大な報酬支払の為に使われ、今後もさらなる金融危機の危険性を高めています。上記の貸し出した住宅ローンの不良債権化は、金融機関自己資本の不足を招き、2008年3月投資銀行ベアー・スターンズが破綻し、救済されたものの、9月のリーマン・ブラザーズには諸般の事情で救済策を取らなかったので破綻し、リーマン・ショックと呼ばれる世界的金融危機が生じました。

 ○新自由主義体制のスローガンは?
 1成長とは九九%の国民の賃金・所得が停滞する事。2パイの増加とは1%の富裕層にパイを集中させる事。3供給サイドの改善とは、家計に返済できないカネを貸して、支出させる事。
 だいぶ長くなってしまいましたが、この本を読むと新自由主義の事がだいたい把握出来る好著だ思いました。