ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

今野晴貴著『生活保護―知られざる恐怖の現場』を読んで

 「貧しい者が国のうちから絶えることはないであろうから、私はあなたに命じて言う。「国のうちにいるあなたの兄弟の悩んでいる者と貧しい者に、必ずあなたの手を開かなければならない。」(申命15:11)

 今野氏のこの本は、大佛次郎論壇賞を受け、流行語にもなった『ブラック企業』出版から1年も経たないうちに出された力作です。図表を駆使しての内容や解説は非常に明快で、すらすら読めます。ところが内容が深刻なので、実際には、今野氏も味わった「恐怖」を追体験しながら、恐る恐る読み進めてゆく感じになるでしょう。
 この生活保護、貧困者の最後のセーフティネットと呼ばれていますが、実態はひどく、それを受ける人へのバッシングが極めて強く、受けようとしても二の足を踏んでしまう事が、読んでみてよく分かります。
 高額所得者の芸能人の母親が生活保護を受給していた事実が明るみに出ると、片山さつき議員を始め、マスコミが一斉に非難攻勢を強め、今野氏が憂えている「『不正受給』の取り締まりの強化、さらには給付額の削減までが実現しようとしている」事態が、この本の発行からわずか1カ月後の2013年8月より現実になりました。今後生活保護制度全体が変わろうとしている、と今野氏は危機感を抱いています。
 恐ろしいのは生活保護を扱うケースワーカーです。彼らは「社会福祉主事」という資格が必要ですが、実際には無資格の者が4割、「ほとんどは一般事務職として地方自治体に採用され、配置転換によって福祉事務所に赴任している」そうですが、彼らには広範な自由裁量権が認められ、申請して来た人を窓口で追い返す「水際作戦」という違法行為が、全国で枚挙に暇がない感じです。
 今野氏はそうした事例を丹念に追いかけていますが、その記述を見ると本当にぞっとします。
 今いかなる企業も「ブラック」になる可能性があるとしたら、違法を繰り返すケースワーカーのいる福祉事務所は、さながらブラック事務所と言ってよいほどです。もっと言えば、そうした悪質事務所が正されずに放置されているなら、これはもう「生活保護法」ではなく、人間としての尊厳も奪われ、或る日突然需給を止められ、自殺や餓死へ持って行くという意味で、「自殺幇助法」とでも名称を変えたほうが良さそうなのです。なぜなら今野氏が指摘するように、「口頭による指導、次に文書による指示を行い、そして弁明の機会を与えるといった手順を踏む必要がある」のにそれを怠っているから、申請者を或る日路頭に迷わせ、死に追いやる事例が後を絶たないからです。
 その意味で今や「働くより生保のほうがまし」というのは、「神話」だと今野氏は断言しています。
 北九州市小倉北区の52歳の男性が辞退届を出し、保護が廃止された後、3か月目日記に「ハラ減った。オニギリ食いたーい」と記して餓死しましたが、まさにそこまで追い込んだ小倉北区福祉事務所の職員はブラックと言われても仕方ありません。
 東京荒川区ケースワーカーは「俺は死ぬしかない」という抗議に対して、「裏の公園に行けばいい木があるよ。ヒモなら貸してやるぞ」と言ったそうで、これなど旧約聖書エステル記で、自分に身をかがめないモルデカイという人を、木に吊るそうとしたハマンを思い起こさせます。ハマンは不正の為自分が立てさせた絞首台で逆に死刑になりましたが、それと同じように荒川区の職員に対しては、神が復讐して下さるようにと祈らずにはいられません。このような職員はごく普通の小心者で、取るに足らない役人に過ぎなかったアドルフ・アイヒマンのような、ホロコースト=貧困者絶滅を実行出来るタイプの人です。
 *今野氏が危惧していた改正生活保護法が昨年12月に成立しましたが、東京新聞によると、その意図は勿論生活保護費の抑制で、「申請手続きの厳格化や扶養義務の強化、不正受給対策の拡充を盛り込んだ」ものです。ところがそのあまりに過酷な内容に対しては、厚生労働省が出したパブコメに、修正を求める意見が殺到し、今年4月19日の東京新聞は、その省令案が大幅に修正され18日に公布された事を報じ、「国民の声 行政動かす」という大見出しで掲載しました。パブコメの威力を発揮した例として、記憶に留めたい出来事となりました。ささやかながら「快哉」を叫びました。