ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

『復興(災害)』(塩崎賢明著)を読んで、戦慄を覚えた

 「貧しい者をあざける者は自分の造り主をそしる。人の災害を喜ぶ者は罰を免れない」(箴言17:5)。
 これは災害復興の本ではありません。復興災害の本です。2006年の著者の造語です。

 著者の塩崎賢明氏は立命館大学名誉教授、阪神大震災復興の為に長らく尽力して来た都市工学者です。
 この本は昨年末の刊行なので、阪神だけでなく東日本の震災も詳述しています。これを読んで、私などは「戦慄」を覚えました。両災害とも復興途上どころか、まだまだ未解決な事、困難な事が山積しており、心が非常に重くなります。
 まず第1章で塩崎氏は阪神・淡路大震災復興20年を顧み、復興事業費の中身を論じています。16兆3千億円のうち復旧・復興を目的としたものは、10兆8千億円(67パーセント)で、残りは防災事業・通常事業として、被害者救済や被災地復興などには全く使用されていませんでした。インフラ整備やハコモノ事業で、生活再建が後回しにされ、その結果として復興災害が生じたと、塩崎氏は憤っています。
 この復興予算の流用は、東日本大震災でもいっそうひどく、2013年度の7兆5089億円のうち、被災者救援は僅か3%の2228億円に過ぎません。*塩崎氏は第二部東日本編で、もっと詳しく流用を述べています。
 そして住宅復興ですが、避難所・応急仮設住宅・復興公営住宅の三段階という単線型プログラムとなっており、最終の復興公営住宅の箱物の評価は、阪神では意外に高いものの、壊されたのがコミュニティで、多くの人々が外出も減り、住宅内に閉じこもりがちになっています。しかも家賃低減策は10年で終了、神戸市や国の改定で実質値上げ、家賃負担は大幅に上昇、生活保護を受ける人が、2006年の段階で26パーセントにも達しています。
 災害援護貸付資金についてはどうでしょうか。個人レベルでの滞納が続出しているのは勿論、中小企業への貸付も到底順調な返済に至らず、廃業・倒産に追い込まれている所が多く、震災前の水準はいまだ取り戻せていません。
 震災障害者の問題は衝撃的でした。阪神では負傷者4万3700人余(重症者1万680人余)、その実態調査はこれからで、推定2500人はいるとの事です。しかし障害者手帳を持っていても、1級しか支援が行われず、見舞金対象者僅か64名とありました。全くひどいものです。*特に東灘区では初めて聞いたクラッシュ症候群で、人工透析が必要な人々の話を多く聞き、長時間足を挟まれたまま放置される事の危険性を知りました。今そうした患者はどれほどなのでしょうか?
 そして孤独死阪神ではこの19年間に、仮設と復興公営住宅での孤独死は1057人でした(東日本では3県で、昨年4月データでは112人)。そして20年目を迎えた今でも、毎年50人のペースで、病死、自己、自殺が原因となっています。コミュニティが失われている現在、特に東日本では今後もっと増えて行くでしょう。
 次の復興災害は復興公営住宅に住んでおられる方々の追い出しです。ここで問題なのは県や市町村が建てる公営住宅ではなく、民間アパートを借り上げ公営住宅として貸すものと、民間業者が建てた建物を買い取って公営住宅として貸すもの事です。特に前者の借り上げ公営住宅ですが、阪神で42000戸のうち7500戸が相当し、それが20年で契約切れになるのです。20年前60歳の人は、80歳という高齢になりますが、それでも契約は契約、退去を迫られます。この無情で冷酷な行政の措置で、生活困窮者の孤独死、病死、自殺は今後一層増えて行くでしょう。
 第一部阪神の復興災害の最後は、神戸市長田区の新長田駅南地区再開発事業です。20年前大火災を起こし、壊滅状態に陥った地域です。ここでは20年経ても、いまだ巨大再開発による復興災害が続いているという衝撃的記述があります。40棟にも及ぶ巨大ビルの建設、その管理維持費、分譲価格の高騰などハードルが高過ぎて、多くの商業者たちが入居出来ず、相当数にシャッターが降りたままという所が続出しています。行政の極めて強権的な手法により、ここでの都市計画は大失敗だったと考えられます。*私が見て来た郡山とか福島市では、短い時間でしたが、そういう光景は見られませんでした。
 第二部で塩崎氏は東日本の復興災害に言及しています。基本は復興予算の他への多額な流用で、「被災者生活再建を第一義に置かない国の姿勢」による復興災害です。被災者・被災地復興以外に資源を振り向けて行く構造が、最初から出来上がっているという政府の詐欺的犯罪行為です。例えば被災者に直接渡るお金は、災害弔慰金590億円、被災者生活再建支援金2945億円、応急仮設住宅3710億円、みなし仮設住宅1958億円として、合計8700億円位ですが、ほとんど関係ない全国防災対策費という名目のものには、既に1兆円以上が流れているとの事です。
 そして工学者塩崎氏は、住宅復興について、かなりページ数を割いています。2014年7月段階での避難者は約25万人、そのうち仮設住宅等に住んでいる人々の数は、22万人に及んでいます。
 まず仮設住宅ですが、最初に来る応急仮設住宅には、現在も3県で9万人余が住んでいます。そしてその仮説と言えば、イメージはプレハブで、建築基準本では存続期間2年以内とされ、急ごしらえによる居住性能の低さから、夏の熱中症、冬の厳しい寒さからの病気などが多発しました。加えて30平米の狭さから、大家族では無理、その立地問題から買い物難民、通院難民が続出し、復興災害でも際立ったものとなりました。

 それらを鑑みて、主として岩手県福島県木造仮設住宅が新たに建設されました(http://www.haryu.jp/kasetu/1jirogu)。この木造の断熱性・遮音性は優れており、地元産の木材がふんだんに使われています。長期使用も可能です。読後感としてはこれだけが復興災害と言い切れず、安堵した次第です。
 最後にみなし仮設住宅です。民間賃貸住宅を借り上げて仮設住宅として提供する施策を指しています。現在11万人余が住んでいます。抽選でどこに行くか分からない仮設と異なり、居住地が選択出来るので、当初希望者が殺到したと言われます。被災者にとっての災いは、この賃貸住宅が大都市圏にある為、被災地を離れなければならないという点にあります。住居家賃や敷金・礼金・仲介手数料などが国庫負担になるものの、やはり入居の原則は2年間です。

 仮設から抜け出す道は2つ。1つは自力再建、もう1つは災害公営住宅への入居です。このうち災害公営住宅の建設が著しく遅れており、塩崎氏によれば、「用意取得の難航、建設作業員など人材確保の困難、資材・人件費の高騰…」があります。それには東京オリンピック開催による公共工事の増加も影を落としています。*実際河北新報福島民報などのサイトを見ても、この遅れが毎日と言ってよいほど報じられています。
 しかしこの災害公営住宅も、4年近く経過しまだとなると、家族問題など諸般の事情から当然空室も出て来ます。実際福島市飯野町に最初に出来た23戸のうち8戸が空室となってしまいました(左上画像復興庁ホームページより)。
 一方自力再建についてはどうでしょうか。これには国からの再建支援金は、全壊家屋でも最高僅か300万円に過ぎません。500万円まで引き上げる案もありますが、到底再建出来ないでしょう。
 以上この本を長々と紹介して来ました。まさに戦慄の復興災害です。私など福島に行く事さえ逡巡させるほどの衝撃でした。4年目に入り、まさにこの災害を減らすにはこれからが正念場だと思いました。