ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

原発ホワイトアウト(若杉冽著)

 「悪者は高慢を顔に表して、神を尋ね求めない。その思いは『神はいない』の一言に尽きる」(詩篇10:4)。
 今までホラー小説など怖いものを幾つか読んで来ました。だいたい幼い時読んだ記憶が残っているくらいですが、図書館で借りた『原発ホワイトアウト』は、近頃本当に恐ろしい小説だと思い、暗澹たる気分になりました。ホワイトアウトとは視界が覆われるといった意味でしょうか。
 これを書いた若杉氏は東大法学部卒で官庁に勤めるエリート官僚のようです。その立場に居ないと分からない事が一杯この本の中に盛り込まれています。
 「最高学府とは東京大学のことをいうのではない。東京大学法学部のことをいうのだ。経済学部出身の小島が検察に働きかけたからといって何ができるというのだ…この小島という男は…わかっていない。東大法学部と経済学部との偏差値の差も、経産省のキャリア官僚と電力会社社員との社会的立場の差も。電力会社のカネの力を笠に着て、自分と同列に自らを論じる小島に、日村はおぞましさを感じた」。東大法学部のみという強烈なエリート意識、傲慢さです。当然悪知恵はたくさん働きます。
 原発を推進したい経産省資源エネルギー庁次長の日村(主人公の一人)は、止らない反原発脱原発の動向について、記録を残さないようにする為、同じ経産相同期で原子力規制庁に行った某審議官に電話で相談します。審議官も再稼動推進派なので、規制委の初代委員5人のうち、推進に慎重な委員長ら(*実在の田中俊一氏?)をどうしたらよいのか話し合います。委員会の専門審査会も慎重な人々が多いので、そこに別の専門家集団を置いて対抗させ、一致して推進に持ってゆけば、規制委員も従わざるを得ません。そうしておいて、慎重派を一人一人、任期延長にせず退職させてしまえばよいのです。
 実際地震学専門の委員島崎邦彦氏は、自民党の某議員が「島崎さんはいてはいけない人だから代わってもらう」と言ったので、呼応した規制庁の圧力により2年で交代させられました。委員長の田中俊一氏は5年で退任しましたが、やはり自民党や電力労組出身の野党議員から執拗な反対意見を突きつけられていたと語っています。
 一方関東電力(=東電)の新崎(=柏崎刈羽原発)の立地する新崎県(=新潟県)では、伊豆田知事(*実在の泉田元知事がモデル)が、原発推進にノーと言い続けています。
 関東電力から日本電力連盟に出向している上記小島は、巨大な集金・献金システムを編み出した男で、その発展により関東電力は今や「国の政策に関して拒否権を持つに至った」ほどです(原子力安全・保安庁にいた事のある友人は、東電の幹部が平然とそこに出入りしていたと言っています)。その小島にとって伊豆田新崎県知事は、目の上のたんこぶですから、「どうやって、この知事に毒を盛るか」を考えます。いろいろなスキャンダルを組み合わせ、総力戦で抹殺させようとします。
 日村は自民党商工族のドンに近づきますが、そのドンも日村を前に「電力と力を合わせて、新崎県知事の伊豆田をなんとかしろっ!…経産省は、いいカッコだけしちゃいかんぞ、泥をかぶれ!」と恫喝まがいの事を言います。
 小島は日村と密かに会い、仕組んだ罠を実行するには、地検の特捜部を動かす事が必須なので、そのつてを求めます。日村は同じ東大法学部出身の特捜検事と出会い、特捜部長を動かせるのは検事総長だけだと知ります。
 そこで政権との距離が近い日村は、その検事総長と総理を赤坂の料亭で会わせます。総理は退出の際「総長、くれぐれも日本国の秩序と安定をよろしくお願いしますっ。エネルギーの安定供給は国の根本ですから」と言って握手しました。その時から特捜部は動き出します。かつての茨城県知事佐藤栄佐久氏、厚生労働省村木厚子氏、外務省の佐藤優氏らと同じケースです。このあたりを読んでいると、本当に怖くなります。脱原発デモでも複数の逮捕者を出して鎮圧させられてしまいました。「政権と検察は、一心同体なのである」。
 そして遂に巧妙に嵌められた新崎県知事伊豆田は逮捕されます。本当だったと錯覚させられるほどでした。本物の泉田知事はhttp://www.asyura2.com/16/senkyo216/msg/149.htmlによると、次のように回顧しています。
 「ある報道機関の人が、取材先から『これ以上取材するとドラム缶に入って川に浮かぶよ』と警告を受けたという体験談をしたあと、『知事も気をつけてくださいよ』と言われたこともありました」。
 おそらく抹殺するぞという脅しだったのでしょう。怖い、怖い!まともに読めば、多くの人が反原発脱原発には関わらないほうが無難、と考えてしまうでしょう。
 小説では真実をマスコミに漏洩した原子力規制庁の総括補佐も、元アナウンサーで記者の女性も、絶対大丈夫だと思っていましたが、遂に逮捕されました。二人の密会場面もリークのやり方も捜査も、迫真の描写です。
 でもこの本の著者若杉氏は大丈夫です。是非匿名のまま内部で頑張って欲しいと思います。
 ブログを書いている時、財務省の元理財局長佐川氏が辞任しました。麻生財務相・安倍首相は彼に責任をなすりつけたようですが、私がこの本を読んだ限りでは、最強の東大法学部出身官僚は総力を挙げてリベンジし、必ず彼らを逮捕させるのではないかと思っています。
 無力な私たちは、かつてのダビデのように「【主】よ。彼らに恐れを起こさせてください。おのれが、ただ、人間にすぎないことを、国々に思い知らせてください」(詩9:20)と祈るのみです。庶民が官僚たちを負かすのは不可能です。出来るのはただ神だけです。いつかその全能の力で、世の不義を正して下さると信じます。