想像を絶する独ソ戦
「また、戦争や戦争のうわさを聞くことになりますが、気をつけて、うろたえないようにしなさい。そういうことは必ず起こりますが、まだ終わりではありません。」(マタイ24:6)
昔高校で習った世界史では、独ソ戦の事は記憶に無かった。今回新聞広告から大木毅著『独ソ戦ー絶滅戦争の惨禍』(岩波新書)を図書館で借りて読んだ。
冒頭の記述から圧倒された。第二次世界大戦での日本軍の死者、非戦闘員の死者の合計は300万と推定されているが、著者は「独ソ両国、なかんずくソ連の損害は桁がちがう」と言う。
ソ連の戦闘員死者はおよそ1,000万、非戦闘員死者およそ1,000万、疫病や飢餓で900万近く死んでおり、現在の推計では合計2,700万人失われたとされている(*細かな数字を省く)。確かに桁が違う。この数はもはや想像を絶する、というか全くピンと来ない。
一方ドイツも、戦闘員は死者およそ500万人、非戦闘員は死者300万に達すると推定されている。合計800万人、日本の2・5倍以上である。
故に著者は「人類史上最大の惨戦といっても過言ではあるまい」と主張する。
「一人の生命は地球より重い」とよく言われるが、ここでは一人の人間のいのちなど虫けら同然だった。ソ連軍の狙撃師団という言葉が出て来たので、ユーチューブで映画や実録を含め閲覧した。狙撃対象は本当に虫けらのように死んで行く。よく戦慄が走るというが、もし私が狙撃される立場だったらと思うと、ふるえが止まらず、血も凍るような場面が続いた。
なぜこうなったのか?当時の両国のリーダーの資質による。ドイツは悪名高い独裁者ヒットラー、ソ連はやはり独裁者スターリンだった。ヒットラーは「みな殺しの闘争」、即ち絶滅戦争を掲げ戦争に突入したが、ソ連もまたドイツ軍の残虐な殺戮に対して激高し、「報復は正義であり、報復は神聖でさえある」として、ドイツに勝るとも劣らない蛮行、仮借ない虐殺を繰り返した。緒戦でのソ連の大敗には、スターリンによる大粛清で、赤軍の卓抜な指揮官が数多く犠牲になった事が関係している。例えば名将トゥハチェフスキーがそうだった。独断、偏見、嫉妬‥、独裁者は何でもありだ。「よく相談しなければ、計画は倒れる。多くの助言者によって、それは成功する」(箴言15:22)とあるが、スターリンのみならず、ヒットラーも同じような性格だった。例えば元帥マンシュタインは、ヒットラーに直言出来る数少ない軍人だったが、ヒットラーは耳を貸さなかった。
かくて両者は適切な戦略・戦術も無く、消耗戦を繰り返し、共に疲弊して行った。最後には「戦争に勝つ能力を失った」ドイツの敗北で終わったという事か。ソ連の圧勝というわけでもない。上記の死者数がそれを物語る。
とにかく後味が悪かった。結局戦争を放棄した日本の憲法第九条死守と言うしかない。