ハテヘイ6の日記

ハテヘイは日常の出来事を聖書と関連付けて、それを伝えたいと願っています。

核化学者高木仁三郎氏の最期

 図書館で高木仁三郎著作集第四巻「プルトーンの火」を借りて読んでいます。700ページもある分厚い本です。きっかけは勿論この卓越した核化学者のプルトニウム論をさらに詳しく勉強したかったからです。収められている書物には既に読んだ事のあるものも含まれていますが、題名となっている「プルトーンの火」はまだでした。そしてその題名をしばしばiireiさんがコメントで口にしておられました。この論考そのものは120ページで、容易に読めます。
 ちなみにプルートーンとは、ギリシャ神話に出て来る神々のうちの一人で「冥界の王」と呼ばれています。この名前はギリシャ神話よりローマ神話のほうでより一般的である為、ギリシャ神話の冥界の王ハーデースのローマ語版と言われているようです。プルトニウムや地質学で使用されるプルトン(=深成岩体)も、プルトーンに由来しています。イエス・キリストはハーデースを福音書で用い、未信仰で死んでいった人々の霊魂が、地下の深い所に下り、最後の審判の時まで一時的に留まる所という意味で用いられました。
 その学びはまた後のブログで触れるかもしれませんが、私がこの全集で注目したのは、未公刊資料にある「死をみつめながらーわが闘病記」(未完)です。このブログでは、その内容について書きました。

 ご承知かも知れませんが、高木氏は1938年生まれ、62歳で大腸がんの肝臓転移で亡くなりました。恐らくは研究過程で浴びた放射能が影響を与えたのではないかと推測します。
そうした放射能との関わりから、私としては高木さんはむしろがんに対して「決然と闘う男」(上記未公刊資料にある言葉)だったのではないかと推測していました。ところがこの闘病記は全然違いました。
 医者嫌いで平素から病院で検査をするという事を怠っていた高木氏は、60歳の還暦を迎える頃大腸の異変に気づきました。そこで検査という事になりますが、そこまでは楽観的でした。しかし結果を聞いて「生涯の中でもかなり忘れることができない衝撃」を受けています。内科医は明確には言いませんでしたが、この時既に肝臓まで転移していました。次に行った外科医の説明で「すっかりショックにうちのめされた」のです。大腸と肝臓の手術によるがん摘出の勧めでした。実はその自覚症状が明確に出る少し前、ライト・ラリブリフッド賞を受賞、ストックホルムまで出かけ、祝賀パーティなどで忙殺されていました。この名誉あるもう一つのノーベル賞(現在のもっとも切羽詰まっている問題<*高木氏の場合プルトニウム>に対し実際的模範的な回答を示した者に与えられる)を人生の絶頂期に受けた高木氏は、それが裏目に出て「人生の最悪の時期」になってしまいました。それが「人間の運命」だと言いつつも、苦悶の日々がその後続きました。
 あちこちの転移で示された選択肢は三つでした。一つ目は全身的抗がん剤投与、二つ目は肝臓だけを標的とする肝動注、三つ目は何もしないという事でした。しかしこの何もしない選択肢を示された時も、高木氏は衝撃を受けました(*ホスピスや在宅ケアの進んだ現在では、少し違ったかもしれません)。さらに別の医師からどの選択肢を選んでも後で後悔しますと言われ、「それこそ脳天をがーんとやられたようなショックをうけた」のです。医者のモノの言いようで、患者はその心に致命的な傷を残します。
 でも気を取り直して高木氏は肝がんの摘出手術を受けました。残念な事にその半年後、未完となったこの原稿を書いていた時(死亡は2ヶ月後)、高木氏はもうベッドに寝ている事も出来ませんでした。さすがに「もう手だてはつきた」と覚悟し、正面から死を見つめる時が来ました。その心境が後半に記されています。
 その題は「死に脅える」でした。人は誰でも死の影に脅えているわけですが、いざ死の日が迫ると、「一般的な脅えなどとは全く次元の違う恐怖が目前にある」と高木氏は書いています。しかしその気持ちを逸らす為にも、或いは次世代に研究成果を伝える為にも、氏は文章を書き続け、一方で宗教書も読んでいます。クリスチャンではなかったがと断った上で、氏は「バイブルなどは以前からよく読んでいたが、この状況で読み返すと確かに違う読め方もする」と言っています。
 残念ながらその高木氏に宣べ伝える人がいませんでした。そこでブッダの『神々との対話』に向かってしまいます。そして「悟りの境地」を模索していますが、「死の瞬間までの間を日々安らかに暮らすという心境にはなかなかならなくて…と思ってしまう」のです。それから数行書いた後、もはや筆が取れなくなりました。
 誠に残念です。自力の悟りと、功なくしてキリストから与えられる永遠のいのちの賜物と平安、どちらが入手しやすいでしょうか?
 プルトニウムを生涯研究し続けた高木氏は、遂に冥界にいるプルトーンのもとに下ってしまったのでしょうか?私はこの未完の書から多くを学びました。自戒の念を新たにしつつ、やはり次のみことばを伝えておきたいと思います。
 「そこで、子たちはみな血と肉とを持っているので、主もまた同じように、これらのものをお持ちになりました。これは、その死によって、悪魔という、死の力を持つ者を滅ぼし、一生涯死の恐怖につながれて奴隷となっていた人々を解放してくださるためでした」(ヘブル2:14〜15)。